日本には、日本独自の車検制度というものがあり、乗用車であれば2年に1度のタイミングで大きな支出を伴うイベントとなっています。車検での費用が掛かることが原因で、車を手放すという人も少なからずいるのではないでしょうか。では、国際的な視点にたって、諸外国の車検制度と比べて日本の車検は高いのかどうかについて説明していきます。
日本の検査制度
乗用車を例にとりますが、日本の検査制度は初回3年、以後2年(3-2-2…)となります。継続検査の手数料は2,000円弱となっており、同時に支払いが発生する自賠責保険や自動車重量税を別にすれば、非常に安価な価格設定といえます。
個々の自動車が安全・環境の基準に適合しているかどうかを、国が一定期間ごとにチェックするのが自動車の検査であり、この検査に合格して有効な自動車検査証の交付を受けていなければ運行することができません。
自動車の検査には、整備工場に依頼する方法と、ユーザー自身等が検査手続きを行うユーザー車検という方法とがあり、いずれかをユーザーが選択することとなります。
諸外国の検査制度
(1)イギリスの検査制度
イギリスの検査制度(乗用車)は、初回3年、以後1年(3-1-1-)となっています。検査手数料は約6,000円で、検査時点での検査可能な項目に関する車両の状態のみを証明するのが制度の趣旨となっています。
ちなみに、定期的な点検・整備は法的には義務付けられていません。したがって、点検・整備制度と検査はリンクしておらず、定期的な点検・整備を実施している人はごくわずかとなります。一般的には、検査前のタイミングで定期的な点検・整備を実施することが多く、一般の整備工場やメーカー系ディーラーがその中心的な役割を担っています。
(2)ドイツの検査制度
ドイツの検査制度(乗用車)は、初回3年、以後2年(3-2-2-)となっており、日本と同じです。検査手数料は約5,500円で、連邦交通庁の認定を受けた民間施設や検査員が民間の修理工場に出張して検査を行うこととなります。
メーカーが推奨している走行距離の基準にしたがって、修理工場で点検をする人が多く、長期旅行の前後に点検・整備を行う人や、検査前に自分で点検・整備をする人が多いといわれています。点検・整備の実施場所は、メーカー系ディーラーが最も多く、次いで一般の整備工場となります。
(3)ベルギーの検査制度
ベルギーの検査制度(乗用車)は、初回4年、以後1年(4-1-1-)となります。交通省の認証を受けた民間の機関が検査を行い、検査手数料は3,200円です。点検・整備は検査と併せて行う義務はありませんが、定期的な点検・整備を実施しているユーザーは全体の80%程度にのぼると言われています。
(4)フランスの検査制度
フランスの検査制度(乗用車)は、初回4年、以後2年(4-2-2-)となります。費用については法での定めがありませんが、概ね7,000円から8,000円前後と言われています。検査を行うのは、県の認定を受けた小型車両の検査を行う民間施設となります。
フランスにおいて定期的な点検・整備を実施しているユーザーは全体の80%程度とも言われています。一般の整備工場やメーカー系ディーラーで自動車検査と同時に整備を行うのはごく少数となります。
(5)スウェーデンの検査制度
スウェーデンの検査制度は、初回3年、次が2年、以後1年(3-2-1-1-)となります。検査手数料は約4,000円程度であり、関係法令への適合性を確認する検査が行われます。
自動車工場には個人的な中古車の売買のため証明書を作成することを目的に点検・整備を頼む人が多いと言われていますが、定期的な点検・整備は法的には義務付けられておらず、定期的な点検や整備をしている人は全体のごくわずかとなります。
(6)スイスの検査制度
スイスの検査制度は、初回4年、次が3年、以後2年(4-3-2-2-)であり、検査手数料は州により異なりますが、概ね8,000円前後となります。スイスの国土が小さいこともあり、検査施設に関しては、自動車サービス協会25施設と州の認定を受けた民間業者の14 施設となっています。点検・整備は検査と併せて行う義務はないものの、定期的な点検・整備を実施しているユーザーは全体の90%程度とも言われています。
(7)イタリアの検査制度
イタリアの検査制度は(乗用車)は、初回4年、以後2年(4-2-2-)となります。検査手数料は約3,000円程度であり、関係法令への適合性を確認する検査が行われます。
点検・整備は検査と併せて行う義務はなく、定期的な点検・整備を実施しているユーザーは 10~20%で、長期旅行等の前に行われています。
(8)アメリカ(ニューヨーク州)の検査制度
アメリカ(ニューヨーク州)の検査制度は、大きく安全面と排出ガス面の2つに分けられます。まず、安全面に関しては、毎年検査を受ける必要があり、10ドルの費用が必要です。排ガス検査は、初回2年、以後1年(2-1-1-)となり、6ドルの費用が必要です。
なお、定期的な点検・整備は法的には義務付けられていません。カリフォルニア州のようにアメリカでも州によって安全面での検査がないところもあります。
日本の車検費用は高いのか
まず、日本の車検制度の検査タイミングは諸外国と比べても特段短いということはありません。さらにかかる費用も2,000円弱となり、欧州と比べればかなり低い価格設定といえます。検査制度ということだけを切り取れば、日本の車検制度は決して高いとは言えません。
ではなぜ車検が高いと思われてしまうのでしょうか。その理由は大きく3つあります。まず一つ目は「自賠責保険」です。日本では「自賠責保険」への加入が義務付けられており、この加入無くして車検を通すことはできません。一方で、米国には自動車保険に関する国の制度はなく、州ごとに最低限度の保険の付帯を義務付けています。この「自賠責保険」にかかる費用というのが、車検の費用を底上げしている1つの要因です。

「自賠責保険」については、国によって保険でカバーする範囲や保険料もまちまちとなっており、日本の制度は比較的手厚い部類に属します。例えば、ブラジルにも強制の自動車保険はありますが、死亡時の補償額は、日本の3000万円に対し、ブラジルでは約60万円というように、非常に補償が限定的になっています。
2つ目は、「自動車重量税」です。昭和40年代に日本にもモータリゼーションが到来し、道路事情の改善が国の急務となりました。「受益者負担」の考えに基づき、道路特定財源という道路整備だけに使う財源を確保するための財源の一つとして「自動車重量税」が設定されたのです。車検時にはこの「自動車重量税」を支払わないと検査を受けられないため、さらに費用がかさむ原因となっています。
「自動車重量税」は、日本特有の税金である一方で、普通乗用車でも数万円程度と非常に高額であるため、諸外国と比べると税負担の面で大きな金額が発生しているといえます。

3つ目は、車検制度と点検整備制度が密接に結びついていることです。日本では、12か月および24か月の点検が義務付けられており、ちょうど車検の時期に24か月の点検を行うことになります。日本のユーザーの大多数はディーラーや整備工場に車検を依頼するため、様々な定期交換部品をこの時期に交換することになります。この点検整備と車検が同時に行われるのが日本特有の決まりであり、車検の費用を引き上げている3つ目の要因です。
特に、日本の国土的事情から、屋根付きガレージを持っているユーザーは限定的です。自分で車の点検や整備を行うユーザーも少なく、整備工場やディーラーにお任せとなっています。本来であれば、必要な部品交換について、整備士と話し合ったうえで実施を決めるべきではありますが、実態としてはディーラーの言うがままということも多くなり、それが車検時の費用を上げる要因ともなっています。

日本の車検制度の変遷
昭和 26 年(1951)の道路運送車両法制定から今日までの間に、道路運送車両法は 50 回以上も改正が行われており、道路運送車両法関係の省令の改正も数多く行われています。特に、1980年代からは、国内の自動車保有台数の増加とともに、行政改革と規制緩和が「車検」制度に求められるようになりました。
1982年9月には自家用乗用新車の初回車検期間を2年から3年に延長する等の整備関係の大幅改革が行われました。1994年7月には自家用乗用車の6か月点検義務づけ廃止、点検項目の簡素化、ユーザーの保守管理責任の明確化、定期点検整備の時期は検査の前後を問わない等の改正を行われています。
さらに、1998年11 月には車両や装置の型式認定相互承認協定である「国連の車両等の型式認定相互承認協定」が日本でも取り入れられ、輸入車に対する規制緩和策として、制度の簡素化や基準の国際間における整合化が進められてきました。
日本の車検制度の中で、車検費用を抑える方法
(1)ユーザー車検の利用
車検代行業者に頼むと、基本料金だけでも1万円から数万円程度かかる検査代行料ですが、ユーザー車検を利用すれば、わずか2,000円の費用で行うことができます。平日に時間が取れるユーザーであれば、コースの見学を行い、初めてであることを伝えれば、検査場の検査官も丁寧に教えてくれるため、専門知識がなくても車検を通すことができます。

(2)車検の前検査と後整備を上手に活用する
ディーラーや整備工場に依頼した場合の車検では、24か月点検がセットになっているため、前整備が基本になります。しかしながら、陸運支局に自分が持ち込むユーザー車検であれば、後整備でも車検を通すことは問題ありません。
(3)自分で部品交換を行う
また、点検で必要となった部品交換についても、DIYでの交換ができれば、大幅に車検費用を抑えることができます。例えば、輸入車ディーラーで部品交換を依頼すると、正規部品を本国から取り寄せるため、部品代だけでも高額となり、交換工賃も高めの設定となっています。
輸入車といえども、交換に特殊な工具が必要とされる車種はごくわずかです。必要な工具の大半はホームセンターでもそろえることができ、部品についてもインターネット通販を利用すれば、OEM品が安価に入手可能です。交換手順についても、よほど希少車種でもなければインターネットで手順を調べることができるため、ますますDIY交換のハードルは下がってきています。
(4)ディーラーや整備工場と話し合えるだけの知識を持つ
DIYで行える整備には限界があり、一定以上の設備や工具が必要となるものについては、ディーラーや整備工場に依頼することになります。また、自分では整備をしないというユーザーであっても、ディーラーや整備工場と話し合えるだけの知識を持つことは非常に重要になります。
多くのユーザーが「次の車検まで壊れないようにしておいて欲しい」というリクエストを出すと、整備する側も過剰に部品交換をせざるをえません。本来であれば、あと半年や1年持つような部品でも、次の車検まで持たないのであれば交換せざるを得ないのです。
そこで、車の構造や部品についても勉強をして、どの部品がどの程度の耐久性があるかを知っておくべきです。タイヤやブレーキパッドについても、どのくらいの厚みで何千kmもつかなどが分かれば、無理に車検時に交換しなくても、次の12か月点検の時でも構わないのです。


まとめ
以上、諸外国の車検制度と比べて日本の車検は高いのかどうかについてまとめてきました。検査制度という意味では、日本の検査料金は諸外国と比べると低い設定となっています。しかしながら、車検と同時に行われる自賠責保険の更新や自動車重量税の支払いによって、実態として車検時にかかる費用は、諸外国と比べると高くなっていると言わざるを得ません。
自賠責保険や自動車重量税の支払い金額を安くすることはできませんが、車検時に行われる整備費用については工夫次第で低減することは可能です。特に、輸入車の場合には、部品の入手先を変えるだけでも、大幅に費用を圧縮することが可能です。持込みパーツの取り付けを行ってくれるショップも増えているため、DIY作業とショップに依頼する内容を上手に切り分けて、整備にかかる費用を抑えていくことが車検費用見直しのポイントです。