日本では、年間約2万台の自動車が盗難被害にあっています。ピーク時と比べれば3分の1程度まで減少しているものの、日本のように車検制度が確立されている国では極めて高い件数を言えます。
盗まれやすい車種には特徴があり、その犯行手口は年々進化を続けています。これから、盗まれやすい車種とその防犯対策について詳しくご説明していきます。
盗まれやすい車種はどれ?
これから、一般社団法人日本損害保険協会が2017年11月に保険金を支払った事案を対象に実施された自動車盗難事故実態調査に基づき、盗まれやすい車種ベスト5をご紹介します。
(1)プリウス
トヨタ最大のヒット作と言っても過言ではないハイブリッドカーです。今日では、全世界中に輸出されており、燃費の良さを背景に、先進国から発展途上国まで幅広い人気を誇るのが特徴です。盗難率で行くと、1,000台あたり0.5台程度となっており、盗難車全体の20%以上を占めています。

(2)ランドクルーザー
こちらもトヨタが世界に誇るベストセラーの4WDです。70系から続くその耐久性の高さは、すでに数々の伝説で立証されており、特に悪路が多い発展途上国で大人気の車です。長い間盗難のターゲットにされており、統計上は弟分のランドクルーザープラドも含めた数値になっています。

(3)ハイエース
ハイエースも長らく盗まれやすい車種の上位にランクインする常連です。東南アジアやアフリカでも人気があり、耐久性に優れ、部品の汎用性があることが特徴です。年式が古いモデルはイモビライザーなどの盗難防止装置が手薄なことも盗難の理由となります。

(4)レクサス
これもトヨタが誇る高級車ブランドですが、ロシアなどでも非常に人気が高いのがレクサスです。盗難防止装置が備わっているにも関わらず、常に上位にランクインしているのには、高級車ゆえの価格の高さも背景にあります。最近では、レクサスLSなどが不正にロシアに輸出されていることも報道されています。

(5)スカイライン
スカイラインは日産のかつての基幹車種ですが、統計上はGTRも含んでいます。セダンモデルが国内でほとんど売れていないことを考えると、盗難被害にあっているのはほぼGTRとなります。日本でしか生産しておらず、海外ではプレミアが付くほどの人気車種であるだけに、今後もこの傾向は続くと思われます。

自動車盗難の現状
(1)地域的特徴
自動車盗難が多い地域は固定化されており、2016年と2017年はいずれも、茨城、大阪、千葉、愛知、埼玉が上位5位を占めており、実に日本全体の盗難の8割にも上ります。
これらを総合的に考えると、人口が多い、あるいは自動車保有台数が多いこと、国際港があって輸出しやすいなどの特徴が挙げられます。
(2)自動車盗難後の処理方法1 解体して輸出
組織的な犯罪グループにより盗まれた車両は、ヤードと呼ばれる施設に運ばれ、不正に解体されることが報道されています。
ヤードとは、周囲が鉄壁等で囲まれた作業所等であり、海外への輸出等を目的として、自動車の解体やコンテナ詰め等の作業のために使用している施設のことを指します。
(3)自動車盗難後の処理方法2 他の車両と合体させて輸出
盗難車と同じ車種の事故車や解体車を合体させて輸出する方法があります。これは、盗まれた車両の車台番号などの個体識別ができる部位を切り取り、同じ車種の事故車を安く仕入れて、その事故車の個体識別部位を貼りつける方法です。
これによって、日本で正規に買い取った車が輸出されたという書類を作成することができます。
(4)自動車盗難後の処理方法3 他の車両と合体させて国内流通
これはメジャーな方法ではありませんが、盗難車と同じ車種の事故車や解体車を合体させて国内流通させる方法もあります。
先ほどの輸出と同じように、車両の車台番号などの個体識別ができる部位を切り取り、同じ車種の事故車を安く仕入れて、その事故車の個体識別部位を貼りつけ、車検を受けて登録する方法です。
(5)キーなし盗難の割合
全体の盗難台数は減ってきているものの、キーなし盗難(盗難時にキーを抜いていた)の割合は高くなっています。盗難被害に遭った自動車の4台のうち約3台がキーを抜きドアロックをしたにもかかわらず盗難被害に遭っており、盗難手口のレベルが上がっているということができます。
盗難の最新手口とその対策
(1)イモビカッター
プリウスなどがよく狙われるのがこの「イモビカッター」と呼ばれる方法です。イモビライザーとは、エンジンキーに埋め込まれた電子チップと車のコンピューターの間を電波で認証させ、暗号化されたIDが一致しないとエンジン始動できない仕組みのことです。
しかしながら、キーを紛失したユーザーのためにイモビライザーを解除するイモビカッターという道具がカギ業者間で出回り、それが悪用されて、車を盗む道具として使われているのです。これは、イモビカッターによって車載コンピューターをリセットし、別のキーを正規なキーと認識させるという構造です。
対策としては、イモビカッターガードと呼ばれる装置を取り付けることです。イモビカッターは、1分以内でイモビライザーを無効できると言われています。そこで、このイモビカッターガードが取り付けられた車にイモビライザーが使われると、ホーンが鳴り響いたり、エンジンもかからなくなります。また、装置を取り外すことも、ある程度の時間がかかります。決して万全な方法とは言えませんが、一定の効果はあると考えられます。
(2)キープログラマー
上記のイモビカッターが流通し始めると、各自動車メーカーはスマートキーシステムを普及させます。キーを廃止することによって、別のキーでのアクセスをできないようにしたのです。
この仕組みを突破するために用いられたのがキープログラマーという機器です。これは、スマートキーを制御するコンピューターを解除してエンジンをスタートさせる装置のことで、インターネットでも買えるようになっています。
キープログラマーの解錠には早くても20分ほどかかるため、それまでに警報を発するセキュリティ装置などで周囲に知らせることができれば盗難を防ぐことができます。
したがって、キープログラマーへの対策としては、カーセキュリティー、盗難防止警報機といった警報音の鳴る防犯装置を装着することです。
(4)リレーアタック
現在の多くの車には、電波式のスマートキーが採用されています。これは、キーから微弱な電波を発信し、車とIDのような仕組みで確認しあうことで、ドアの開錠やエンジンのスタートをできるようにする仕組みです。
この技術を逆手に取って、「リレーアタック」と呼ばれる方法でスマートキー式の車を盗難する方法が海外から入ってきています。
これは、スマートキーから常時出ている微弱な電波を増幅させて他に飛ばす中継基地を作り出して、仲間へその電波を飛ばし、ドアの開錠やエンジンのスタートをして盗難するというものです。
人が多い駐車場では、ある程度近い距離に人がいても怪しまれることがないうえ、非常に防ぐことが難しい方法です。北米では、家に置いておいたスマートキーの電波を窓の外から増幅させて飛ばし、ガレージの車を盗むなんて荒業も報告されています。
このリレーアタックに有効な対策は、電波を遮断するケースにスマートキーを入れて持ち運ぶことが考えられます。ただし、スマートキーが機能を果たさなくなるので、利便性が大きく劣ります。
(5)その他の対策
以上説明してきたように、電子的なロックシステムは必ず抜け道があり、解除ができるようになっています。逆にそうでないと、キーを紛失するたびに自動車メーカーの工場に送り返すなんてことにもなりかねません。そこで、今一度見直したいのは、旧式の盗難対策です。
まず、「ハンドルロック」については、視覚的な効果もあるので、一定の抑止力になります。ハンドルロックの鍵穴部分を壊す方法や、ハンドルロック自体が切断されること、適切な位置に取り付けないとハンドル自体が簡単に切断されてしまう点などの弱点はあるものの、今でも値段以上の効果が期待できます。
他にも、「タイヤロック」という方法があり、2輪車などには今でも有効な対策の1つです。これを解除するには物理的にしか破壊できないため、時間と手間がかかり、音も出るため、犯行グループとしては避けたいタイプです。
しかも、ハンドルロックと違ってタイヤロックを破壊するには車外での作業が必要で、人目につきやすいのです。ただし、タイヤロックが掛かっているタイヤを取り替えられると、全くの無意味な抵抗となります。
そこで、「ロックナット」と呼ばれるナットに純正から変更する必要があります。欧州車ではこの特殊形状のロックナットが一般的で、特殊な工具でしかナットを外せない仕組みになっています。ただし、これについても特殊な工具を使えば強制的に外すことは可能です。
防犯対策のまとめ
盗難対策には、主にコンピューター系の盗難対策と物理的な盗難対策の2パターンに分けられます。コンピューター系の盗難対策は、いったん解除キットが出回ると一気に広まり、盗難されるリスクも高まります。
一方の物理的な盗難対策は、ユーザー側の面倒が大きいものの、物理的な破壊はある程度の時間や音が出るため、標的にされにくいというメリットがあります。いずれにしても、ある程度の費用を支払って、信頼できる対策を講じることが絶対条件です。
以上、盗まれやすい車種と防犯対策についてまとめてきました。日本における盗難被害第一位はプリウスであり、最もメジャーな車種といえます。
メーカーも盗難対策装置を改良していますが、ハイテク装置には必ず抜け道があり、そういったキットが海外から入ってきて安く出回ることがこれまでも幾度となく起こっています。
そこで、物理的な防御と電子的な防御を組み合わせて対策をとることが重要です。完璧な方法はありませんが、費用対効果を考えながら、ベストな組み合わせを探す努力が不可欠です。