サーキットなどのスポーツ走行を楽しむユーザーの中では、シートをフルバケットシートに変更するユーザーも増えています。
そんな中、フルバケットシートの状態で車検を受けて不合格になったという話を聞いたことはないでしょうか?今回は、フルバケットシート装着車両が車検に通るのか否かについて、詳しくご説明していきます。
フルバケットシートとは
バケットシートとは、体を包み込むような形状の特別なシートのことを意味しており、F1というモータースポーツ最高峰の世界にその起源を遡ることができるとされています。
フォーミュラーカーというレーシングカーは、特にコーナリング時における重力の変化が大きく、自分の体重の何倍もの力が加わります。
当然、全身が押し付けられるような形になり、乗用車のシートでは体がずれてまともなドライビングができなくなります。そこで、肩、脇腹、腰、腿を覆うよう造られたのがバケットシートなのです。
レースの世界では、ドライバーの体型に合わせてオーダーメイドでシートを作成しますが、市販品の場合は、シートメーカーが汎用品を発売することになります。
バケットシートは、「フルバケットシート」と「セミバケットシート」の大きく2つに分類されます。
フルバケットシートとは、リクライニングしない1形状のシートであり、主にレーシング目的で使用されることが多くなります。体の自由度は大きく制限されますが、ラリーなどの公道レースを始め、サーキット走行で必要な高いホールド性能を得ることができます。
もう一つのセミバケットシートは、リクライニングが加わり、ある程度の体の自由がきく造りとなっています。メーカー純正でバケットシートが装着される場合は、通常こちらのセミバケットシートが採用されることが多く、フルバケットシートに近いホールド性を誇るものもあります。レーシング走行をするとはいえ、公道での自走も考えた場合、セミバケットシートの方が一般的な走行に適していると言えます。
シートの素材は、カーボン(炭素繊維)やFRP(ガラス繊維)が主流です。シート部分は、一体成型されたスポンジやポリウレタンが使われ、乗用車のシートと比べると薄くて軽いことが特徴で、クッションは最低限となります。
フルバケットシート単体での使用はできず、通常は車種別に適合したシートレールも購入して、しっかりと取付けを行う必要があります。
フルバケットシートが標準装備の車両
(1)86 TRDコンプリートカー 14R-60
トヨタの86をTRDが改造して販売しているコンプリートカーです。エンジンはノーマルのまま車両重量を1t以下にまで軽量化し、ボディーや足回り、空力のチューニングで大幅にポテンシャルアップを果たしています。フルバケットシート (運転席/助手席)が装着され、リヤシートレス(2シーター化)されていることがポイントです。100台限定ですが、すでに販売が終了しており、究極の86と言えるモデルです。

(2)BMW M4 GTS
BMW M社が開発したレーシングマシンが「BMW M4 GTS」です。ロードカー世界初のウォーター インジェクション システムが搭載され、3リッター直列6気筒ツインターボの500psは圧巻という他ありません。後部座席は取り払われ、ロールバーが組み込まれます。シートは、カーボン製のフルバケットシートが装着されている1台です。ちなみに、ウォーター インジェクション システムとは、特に高回転域で冷却のために用いられているガソリンの代わりに水で代替するというものです。

(3)コルトRALLIART Version-R 特別仕様車「RECARO Edition」
専用オプションで人気の高いRECARO社製フルバケットシートなどを組み込んだ「コルトRALLIART Version-R(ラリーアート バージョンR)」の特別仕様車です。ホールド性が一層高まったRECARO社製フルバケットシート(ショルダーパッド付)がフロントシート(運転席、助手席)に標準装備されています。ここで挙げた車種の中で、最も乗用車に近いカテゴリーの車です。

(4)RX‐7「スピリットR タイプA」
RX-7史上最も走りの性能を高めたモデルであり、最後の限定車にふさわしい究極のRX-7と呼ばれているのが「スピリットR タイプA」です。レカロ社製専用レッドフルバケットシートの2シーターとして、車両重量を約10kg軽量化したモデルのことを指しています。すでに生産が終了して年月がたっているものの、その人気と中古車価格は高いレベルを維持しています。

(5)メルセデスAMG GT R
「メルセデスAMG GT」の高性能モデルであり、ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェを舞台に開発がされた究極の1台です。「M178」型4リッターV8ツインターボエンジンやトラクションコントロールなどのハイテク装備によって、ニュルブルクリンク北コースでは7分10秒9というラップタイムを記録しています。フルバケットタイプの「AMGスポーツバケットシート」が装着されています。

フルバケットシート装着で車検が通らない理由1
フルバケットシート装着で車検が通らなくなる理由の1つ目は、2ドアで後部座席があるタイプの車の場合に起こり得る問題です。それは、フルバケットシート化によってシートがリクライニングしなくなり、後部座席へアクセスできなくなるということです。
この問題を回避するため、86 TRDコンプリートカー 14R-60やBMW M4 GTSなどではいずれも後部座席を外して2シーター化していました。コルトRALLIART Version-Rの場合は、4ドアなので問題はありません。
したがって、2ドアで後部座席があるタイプの車で車検を通す場合には、後部座席を取り外し、乗車定員を2名にするという構造変更申請を行う必要があります。スポーツ走行を行っている車の場合、すでに後部座席を外しているユーザーも多くなりますが、構造変更申請を行っていない人が多いのも実情です。
乗車定員が4名であれば、4名が座れるだけのシートを備えていることが保安基準上必要となるのです。


フルバケットシート装着で車検が通らない理由2
道路運送車両の保安基準第22条(座席)の4には、
前項の自動車(次に掲げる自動車を除く。)の座席の後面部分は、当該自動車が衝突等による衝撃を受けた場合において、乗車人員を保護するものとして、構造等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない。ただし、前項各号に掲げる座席にあっては、この限りでない。(1) 乗車定員が11人以上の自動車(高速道路等において運行しないものに限る。)(2) 貨物の運送の用に供する自動車。
という定めがあります。
言い換えると、「シートの後ろ面は、後部座席の人を保護する構造でなければならない」ということです。乗用車のシートの後ろ面にもクッションが入っていますが、これは単にデザインの問題ではなく、保安基準の問題もあるのです。
この問題をクリアするためには、背面に貼り付けする事ができるプロテクターなどを利用することが必要となります。特に競技用のバケットシートは、カーボンやFRPがむき出しであり、見るからに保護する構造にはなっていません。
フルバケットシート装着で車検が通らない理由3
フルバケットシート装着で車検が通らない理由3つ目は、車検対応品のフルバケットシートを装着した場合であっても、サイドエアバッグの警告灯や、シートベルト未装着の警告灯が付く場合です。
DIYでフルバケットシートを装着し、適正な手順で警告灯を消さなかった場合、車検時に指摘をされて不合格となります。
車検適合のフルバケットシート
レカロの正規品のフルバケットシートでは、「保安基準適合品」なっている製品も存在します。これは、特別なシート背面用緩衝パッドなしでも保安基準を満たしているとして、保安基準適合証明書類が各地の陸運局に提出済みであるということです。
シートレールに関しても、同様に強度を証明する書類が提出されています。
気を付けるべきは、その他のショップや中古品、メーカー廃盤品などを使用した際に、保安基準の適合かどうかを証明する手段がなくなってしまうということです。
こうした場合、シート背面用緩衝パッドなどを取り付けるか、別途保安基準適合証明書類を用意するなど面倒なことになります。
フルバケットシートの車検適合まとめ
これまで説明してきたことをまとめると、フルバケットシートはメーカーの新車状態でも装着されており、継続車検が通らないことはありません。
ただし、アフターパーツでフルバケットシートを取り付けた場合は、以下のようなポイントについて注意する必要がでてきます。
まとめ – 法令遵守でバケットシートも車検適応に
以上、フルバケットシート装着車両は車検に通らないかどうかについて説明をしてきました。
きちんと法令を守り、メーカー指定の基準に従えば、フルバケットシート装着車両であっても車検を通すことは可能です。
ただし、細かい注意点を守ることが重要であり、事前の情報収集が非常に重要となります。