車検の話をしている時に、車に詳しい人やお店から、「構造変更」という用語を聞いたことはないでしょうか。
「構造変更」というのは、その名の通り、エンジンを乗せ換えたり、サスペンション形式を変更したり、車体の形状が変わるような改造をした時に必要な手続きのことを指します。
もちろん、自分が購入した車のオーディオを変更したり、ホイールを社外品に替える程度では「構造変更」というのは必要ではありませんが、改造をする前に十分に注意をしておかないと、適正な「構造等変更検査」の手続きを忘れたなんてことにもなりかねません。
では、今からこの「構造変更」の仕組みや実例について詳しくご説明していきます。
1.構造変更の具体的な意義と必要性
構造変更は「書類の審査」と「車両の審査」で構成される
自動車は、自動車検査登録制度(車検)があり、車検によって保安基準に適合しているかを定期的に検査される仕組みが整備されています。

当然のこととして、車両の長さ、幅、高さ、乗車定員、最大積載量、車体の形状、原動機の型式、燃料の種類、用途等に変更が発生するような改造をした場合、保安基準に適合しないおそれが出てきます。
そこで、決められた「構造等変更検査」を受けることで、正規に車検証の記載内容を変更できることが可能となってくるのです。この「構造等変更検査」のことを「構造変更」と一般的に呼んでいます。
なお、管轄は使用の本拠の位置を管轄する運輸支局となっており、車両の持ち込みが必要となります。
「構造等変更検査」には、大きく分けて、書類の審査と実際の車両の検査の2つからなります。
書類の審査に関しては、ある程度簡易的なものから、強度計算等の専門的なものまで様々であり、期間も審査に数週間かかるものもあります。
構造変更の適用除外について
「構造変更」のルールだけを見ていると、自分の車にルーフ・ラックを取り付けただけで「構造等変更検査」が必要のように思えてしまいます。
しかしながら、自分の車にルーフ・ラックやルーフ・ボックス、サン・バイザー、アンテナ、コーナー・ポールなどを取り付けることは非常に一般的であり、これらに全て「構造等変更検査」を課すのは現実的ではありません。
そこで、構造変更の適用除外が定められており、除外されるパーツが指定されています。
その中には、スポイラやエアロパーツ、キャンピングカー用日除け、アンダー・ガード、泥はねよけ、ナビゲーション、オーディオなどが含まれています。
他にも、コイル・スプリングやショック・アブソーバ、ストラットなどの足回りパーツに関しても、走行中運転者席等において車両姿勢を容易かつ急激に変化させるものでなければ指定パーツとなります。
したがって、これらの指定部品がリベット・溶接による取付(恒久的取付)ではなく、ボルト・ナット等による固定的取付の場合には「構造等変更検査」は不要となるのです。
構造変更の実例
4ナンバー化(貨物登録)
ユーザー自身ができるレベルの構造変更で、最もポピュラーなのが4ナンバー化(貨物登録)です。これは、強度計算などの複雑な書類も不要であり、基本的に座席などを取り外した後、一定の作業で貨物登録の条件を満たせば構造変更が可能となります。
過去にステップワゴンなどのミニバンを4ナンバー化するのが一時期流行した時代もあります。主なメリットは税金面での負担減であり、バイクを乗せるトランポ化には有効な手段と言えます。

詳細な基準は運輸支局の検査官次第ですが、最低限3列目シートは取り外す必要があります。これは1m×1mの荷室スペースを確保するためです。
他には、セカンドシートのリクライニング機能を無くす必要があったり、最大積載量を記載する必要があったりします。同じ車種で4ナンバーと5ナンバーの両方の設定がある車種も存在しており、基本的に今付いている装備を外す改造なので、4ナンバー化は比較的難易度の低い構造変更ということができます。

3・5ナンバー化
3・5ナンバー化とは、4ナンバー化(貨物登録)とは全くの逆パターンとなります。
例えば、ファミリーからも人気の高いハイエースのSUPER GLは、新車販売時では「1ナンバー」もしくは「4ナンバー」登録となります。
コンパクトなボディーで広い室内、引き締まったエクステリアが人気の車ですが、新車状態では定員が最大5名までとなってしまいます。これだと、8人乗りのミニバンに対して優位性がなく、多人数乗りユーザーからすると不満が出てきていました。
車検についても乗用登録が2年である一方で、貨物登録では1年なので、その分の手間が大きなデメリットとなっていました。
そこで、3列目のシートを追加した3・5ナンバーのハイエースのSUPER GLワゴンがショップで販売されています。
これは、新車のハイエースを改造し、構造変更を行った上で販売が行われているので、ユーザー自身は手間がかからずに購入することができます。
ハイエースについていうと、メーカー自体がワゴン登録できるだけの検査をしていないため、強度証明等の書類の作成は膨大なコストや手間が必要であり、こうした構造変更は専門ショップのノウハウが必要になってきます。
主なポイントは、3列目のシートとシートベルトを装着して、それらの強度証明の書類となります。

エアサスからコイルスプリングへの構造変更
次に、足回りをエアサスからコイルスプリングへ構造変更する事例をご紹介します。これは、4ナンバー化と比べて大幅に難易度が上がり、過去に作業例のある専門ショップの力を借りないとほぼ不可能なレベルです。
まず、エアサスからコイルスプリングへ構造変更する主な理由は、エアサスの故障率の高さと修理代です。例えば、初代のメルセデスベンツのVクラスは、前輪はストラット式のコイルスプリング、後輪はエアベローズ(風船)を使ったエアサスを採用していました。
初代のメルセデスベンツのVクラスでは、頻繁にエアを保持させるバルブが故障し、しかも正規ディーラーでしかエアサスのシステムにアクセスができないため、部品代や診断費用が高額になっていました。
そこで、コンベンショナルなコイルスプリングへ変更したいと思うわけですが、欧州では後輪がコイルスプリング仕様のVクラスも販売されており、部品の入手自体は比較的容易です。
しかしながら、後輪がコイルスプリング仕様のVクラスは日本国内で型式指定を受けていないため、構造変更を行うには非常に高いハードルとなっていたのです。
通常、2000ccと3000ccの両方のラインアップがある車において、2000ccの車体に上級グレードの3000ccのエンジンを積むための構造変更はさほど難しくありません。
正規で型式指定を受けていれば、メーカーが国に対して細かいスペックを提出しているため、上級グレードに用いられているパーツを使用し、必要な強度計算の数値も提出済みのデータから引用することが可能だからです。
しかしながら、後輪がコイルスプリング仕様のVクラスは日本国内で型式指定を受けていないため、改造自動車届出書、改造等の概要、構造図、強度計算書、作業状況画像などを提出する必要があり、それら書類の事前審査をパスし、車両自体の検査を受けてやっと構造変更が完了となります。
同じ構造変更としては、レンジローバーをエアサスからコイルサスに変更する事例も多くなっています。実体としては、かなりの数のレンジローバーがコイルサスに変更しているものの、構造変更を行ったのはその一部ということです。
車検証にサスペンション形式の記載はなく、継続車検時もそのまま通せてしまうことが多いのがその理由です。しかしながら、構造変更の手続きを踏まない車は不正改造車となり、処罰の対象ですので注意が必要です。

構造変更の注意点
構造変更の注意点としては、排気量や重量、ナンバー変わる場合があるということです。
つまり、車検の有効期間が2年から1年になったり、自動車重量税、自動車税、自賠責保険などの金額が変わることがあるのです。
車検の有効期間が残っている車においては、自動車重量税や自動車税、自賠責保険などが変わるような構造変更をした場合、新しい自動車税や保険料を支払い、残りの期間の自動車税と自賠責保険料は払い戻されますが自動車重量税は返金されません。
具体的に説明すると、仮に新車で購入した乗用車を4ナンバー化した場合、車検の残り期間を切り捨てて、継続検査を受ける必要があります。
自賠責保険、重量税、自動車税が変更になる場合、規定の残存期間があれば、自賠責保険、自動車税は日割り計算で還付されます。しかしながら、重量税は返金されないため、2重での支払いを余儀なくされます。
このようなデメリットを考慮すると、構造変更は可能な限り継続車検と同じタイミングで行った方が、税金面でのロスが少なくなります。ただし、構造変更の内容によってはある程度の期間が必要なこともあるため、計画的に進めることが重要です。



4.構造変更の費用
構造変更の費用については、その内容について千差万別です。
簡易的な内容であれば、書類作成や検査手続きの代行費用として数万円ですむことがほとんどです。
しかしながら、前例がないような構造変更を行った場合、強度計算などの高度な資料の作成が必要となり、当然かかってくる手間も増えるため、費用も高額になるのです。
まとめ
以上、構造変更の仕組みや実例、注意点について詳しくご説明していきました。車の構造の変更を伴う改造をする場合には、「構造等変更検査」の手続きをしておくことが重要です。
実際には、「構造等変更検査」を行わなくても、日常的な使用は可能です。また、継続車検の検査時に見つからなければ、車検に通ってしまう可能性もありますが、違法状態であることには変わりありません。
そうした改造車を売却した場合、買い手のユーザーが車検時などで改造を指摘された場合、あなた自身がトラブルに巻き込まれることにもなりかねません。
したがって、運輸支局に確認を取りながら、正規の手続きで構造変更を確実に行うことが非常に重要になってきます。
