インターネットで車を売買しようとするときに、「予備検査付き」「予備検査渡し」という条件が書かれた車両を見たことはないでしょうか。インターネットで売買が行われると、買い手が遠隔地に住んでいることも多くなります。
そういった際に活用されるのが車検の予備検査(車検予備検査)になります。
今回は、この予備検査の意味や利用方法、注意点などを詳しくご説明していきます。


自動車検査(車検)の種類
自動車の検査には、車を買ってから定期的にやってくる「継続検査」を含めて、様々な種類があります。
構造等変更検査
1つ目に、自動車の長さ、幅、高さ、最大積載量等に変更を生じるような改造をしたときに受ける「構造等変更検査」があります。
例えば、エアサスペンションの車を従来型のコイルサスペンションに変更した場合、この「構造等変更検査」を確実に行っておかないと、後々のトラブルに発展することがあります。
新規検査
2つ目は、新規検査といって、一時的に使用することを中止する手続きをした自動車を再度使用しようとするときに受ける検査です。いわゆる車検切れの車を売買した場合、通常は自動車販売店が自動車を運輸支局に持ち込み、その場で検査を受けて新しいユーザーの名義に登録するという一連の流れになります。
予備検査
3つ目は、予備検査となり、使用者が決まる前に商品として受ける検査になります。一般的には、自動車は買い手が決まってから車検を受けて登録を行うため、2つ目の新規検査が用いられます。ただし、何らかの事情で車検は通したいけど登録できない時に使われるのがこの予備検査になるのです。
継続検査
4つ目は、世の中一般的に言われる「車検」、つまり「継続検査」になります。車検が切れる1か月前から受けることが可能であり、乗用車であれば新車購入後3年、その後は2年おきに「継続検査」を受ける必要があります。
予備検査の概要
予備検査とは、検査のみを行い、後日新規登録を行うための検査のことをいいます。実際の検査は新規検査の内容と変わらず、同日に名義を新しいユーザーに登録するかどうかだけが大きな違いです。
なぜこんな検査が必要かというと、主に並行輸入業者、トラックやバスなどの架装・改造業者などがあらかじめ検査を受けておくことで、納車までの時間短縮などを目的にした検査です。
もともと予備検査とは、離島や検査事務所が無い地域に自動車を登録するため、並行輸入自動車などに行われていた車検のことを指しており、車検制度の規制緩和に伴ってどの地域でも予備車検ができるようになりました。
遠隔地で検査を受けることができる
最大の特徴としては、使用者の住所地、使用の本拠の位置を管轄する以外の運輸支局、検査登録事務所及び軽自動車検査協会でも受検できることです。
新規検査が使用の本拠の位置を管轄する運輸支局に限定されることと比べ、管轄運輸支局の指定がなく、予備検査証の交付を受けると、3か月以内なら書類だけの審査で新規登録ができます。なお、この登録も全国全ての運輸支局で有効です。
つまり、北海道にある車を北海道の運輸支局に持ち込んで予備検査を受けておき、3か月以内に沖縄のユーザーに売却して沖縄で新規登録をすることが可能になるのです。
予備検査のメリット
車検切れの車を売買する際の最も大きなリスクは車検を通して登録することができるかという点です。例えば車検に通らないような重大な瑕疵が隠れていた場合、売り主との間でトラブルに発展することになります。
個人対個人の売買の場合、特にこうしたトラブルは解決が難しくなります。相手が契約解除に応じれば別ですが、そうでない場合は、法的手段を検討することになります。しかしながら、裁判を起こすにも多額の費用がかかり、仮に勝訴したとしても、相手に差し押さえる銀行預金などの資産がなければ回収は難しくなります。
その一方で、予備検査が通っていれば新規登録は確実にできるため、最悪でも2年間は車検付きの車を保有することができるのです。
予備検査に必要な書類と費用
(1) 登録識別情報等通知書[一時抹消登録証明書]
平成20年11月4日から登録識別情報制度が開始され、一時抹消登録をすると、従来の「一時抹消登録証明書」に代わり、「登録識別情報等通知書」が、自動車の全ての所有者に交付されるようになりました。登録窓口にはコピーを提出します。
(2) 譲渡証明書
一時抹消登録証明書の名義人とは別の名義で予備検査を受ける場合に必要です。旧所有者の印鑑が押印されているもので、登録窓口にはコピーを提出します。
(3) 委任状
本人が予備検査を受けるなら認印を申請書に押印するため、委任状は必要ありません。予備検査証の発行を受ける名義人と手続きを行う方が違う場合は、委任をする旨の委任状が必要になります。
(4) 手数料納付書
検査印紙を貼付するための要旨であり、運輸支局に行くと用紙販売所で無料でもらえます。
(5) 申請書(OCRシート1号様式)
OCRシート1号様式は、平成29年1月より運輸支局や自動車検査登録事務所において配布しているほか、国土交通省のホームページに掲載している様式を印刷して申請に使用することができるようになりました。
(6) 自動車検査票 or 保安基準適合証
こちらも、検査を受ける際に必要となり、係員に検査内容を記載して合格印をもらいます。運輸支局に行くと用紙販売所で無料でもらえます。
(7) 検査印紙
検査を受ける際の手数料になります。3ナンバーの車で2100円、5ナンバーの車は2000円であり、予備検査証の有効期間内に新規登録をすれば、検査印紙は再度支払う必要はありません。
予備検査を受ける流れ
(1) 車検の予約
予備検査を受けるためには、車検を受ける前に前もってインターネット予約をする必要があります。このあたりはユーザー車検と全く同じです。予約は2週間前から受付が可能となっており、空きがあれば当日でも予約可能です。
(2) 書類の準備
用紙販売所で申請書類をもらい、印紙を購入し書類を作成します。慣れないと時間がかかる作業ですが、運輸支局には書き方の見本もあります。事前にネットで書き方を調べて下書きを作成しておくと、当日スムーズにいきます。
(3) 書類チェック
運輸支局の窓口で、予約と書類の確認を受けると、検査コースに入るように指示をされます。
(4) 検査
同一性の確認、外廻り検査、サイドスリップ検査、ブレーキ検査、スピードメータ検査、ヘッドライト検査、排気ガス検査、下廻り検査を行い、検査コースの最後で合格印の押してある自動車検査票を受け取ります。
(5) 書類の提出
一時抹消登録証明書や申請書などの必要書類と合格印のある自動車検査票を合わせて運輸支局の登録窓口に提出します。
(6) 予備検査証の発行
書類の確認が行われ、予備検査証が発行されます。
予備検査の活用法
予備検査は、1.完成検査修了証の有効期間が切れている場合、2.完成検査修了証の有効期間が残っているが諸元等が変わる場合、3.輸入者でまだ一度も日本で登録されていない車、4.中古車で一時抹消されている車の4つのいずれかの場合に受けることができます。
日本は縦長の国土であるため、自動車の輸送はコストが高くなります。したがって、自動車の輸送は最小限に抑えることが鉄則であり、不具合があるという理由で車を動かすことは大変な労力とコストがかかります。
一時抹消済みの車を取引する場合、買う方からすると、最低でも車検が付いて2年間乗れることが重要になってきます。ユーザー間で取引される場合、車検が残っている車の方が圧倒的に人気が高いのはこのためです。
そこで、たった2千円程度の費用で車検を通したと同じ効果を得られる予備検査を利用するわけです。売る方からすると、最低限のコストで売却金額を大幅に上げるメリットがあり、特にインターネット上の売買ではよく用いられる手段です。
予備検査の注意点
予備検査は、車検が通ったのと同じ状態であり、3か月以内に名義さえ登録すれば、車検制度上は2年間車を保有することができます。しかしながら、このような大変便利な制度にも、大きな注意点があります。
普段ディーラーや民間車検業者に車検を依頼していると、細かい明細までチェックしないので気付かないのですが、車検というのは、法で義務づけられた定期的な車両検査のことであり、その名前のとおり検査だけですので、早ければ15分程度で終わってしまいます。
この車両検査と法定24ヶ月点検は別個の仕組みであり、業者に任せた場合は通常セットになっているものの、ユーザー車検の場合は車検を受けた後で法定24ヶ月点検を行うことも認められています。

予備検査についても、ユーザー車検と同様に法定24ヶ月点検を受けていなくても通ることができます。つまり、予備検査に合格したからといって、次回車検までの安心な走行が保証されるものではないのです。
例えば、ブレーキパッドの残りが1mmしかなかったとしても、検査で規定の制動力が出ていれば、それで予備検査は通ってしまいます。タイヤを外してブレーキパッドの残量を調べることは行われません。
他にも、オルタネーターやウォーターポンプ、エアコンのコンプレッサーが壊れて異音が出ていたとしても、仮にトランスミッションに重大な不具合があったとしても、40kmまでスピードが出て、ヘッドライトの向きが合っていれば予備検査は通ってしまうのです。
このように、予備検査が付いていることと、車の状態がいいことは全く別次元の要素であるため、整備に関しては余分に費用を見積もっておいたり、売買の前に細かくチェックすることが重要です。

まとめ
以上、予備検査の仕組みや予備検査の受け方、メリットや注意点について細かく説明してきました。個人間での売買の際に、車検に通らないというリスクを排除する意味では、コストも安く、非常に便利な制度です。
売る方も買う方も、予備検査のメリットと注意点を十分に理解して、正しく活用することが大変重要です。