車検の検査項目の中で、もっとも不合格になる確率が高いのが「光軸」です。
単にヘッドライトのバルブを交換したら明らかに光の向きが変わってしまったということもあるので、知らず知らずのうちに光軸がずれてしまうケースは珍しくありません。
そこで今回の記事では、知っているようで知らない、ヘッドライトの光軸について解説し、自分でできる調整方法についてもご紹介します。

ヘッドライトの光軸について
光軸とは、「光」の「軸」。
すなわちヘッドライトが照らす方向のことを意味します。
ヘッドライトは、ただ前方をなんとなく明るく照らしていれば良いといわけではなく、照らす方向は、国が定める最低限の安全基準である保安基準によって決められているのです。
万が一光軸がズレてしまっている場合、夜間の視界が悪くなり、運転に支障をきたすだけでなく、対向車や歩行者、自転車など、自分以外を眩しくさせ、危険にさらしてしまうことにもなりかねません。
「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」の第198条によると、ヘッドライトの照射範囲が定められ、ハイビーム(走行灯)は、夜間にすべてを点灯させたとき、前方100メートル先にある交通上の障害物を確認できなければなりません。
また、ロービーム(すれ違い灯)については、夜間にすべてを点灯させたとき、40メートル先にある交通上の障害物を確認できなければないとされています。
ハイビームとロービームの違い(カットオフラインとエルボー点について)
ハイビーム(走行灯)は、その名の通り、走行するために点灯させるものですが、そのまま街中を走行していると、対向車や先行車が眩しく感じ、安全運転の妨げになってしまいます。
そこで、前方に対向車や先行車がいる場合には、ロービーム(すれ違い灯)に切り替えます。
ハイビームが全方向を照らしているのに対し、日本は左側通行であるため、ロービーム(すれ違い灯)は、右上部の光をカットし、対向車や先行車の視界を妨げないようになっているのです。
このロービーム(すれ違い灯)時にカットされている光の境界線を「カットオフライン」と言い、屈折しているポイントをエルボー点と言います。
詳しくは後述しますが、車検時の検査において、重要なポイントになります。
光軸は明るさにも影響する
光軸が大きくずれている場合、上向きになっていれば対向車が眩しいのはもちろん、夜間走行時に必要な視界を照らせなくなってしまいます。
例えば、電球単体を点灯させた場合、電球を中心として、光は放射状に広がりますが、光源である電球から離れると、その光はどんどん弱くなり、あまり遠くまで明るく照らすことはできません。
そこで、車のヘッドライトでは、ヘッドライトバルブなどの光源から出る光を、リフレクターと呼ばれる反射板や、プロジェクターレンズによって屈折させています。
そうすることによって、何もしなければ放射状に広がってしまう光を収束し、照らしたい方向をより遠くまで照らすことができるようになっているのです。
そのため、光軸がズレていると、本来照らしたい方向に光が満足に届かず、ヘッドライトが暗くなったような感覚になってしまうことがあります。
光軸がズレる原因
100%とは言えませんが、光軸は道路状況や車によって、たった1km走行するだけで簡単に変わってしまいます。
ヘッドライトは、運転席にあるスイッチ操作で点灯させますが、エンジンやミッション、タイヤなどのように、動くようなものではないにも関わらず、なぜズレてしまうのか、不思議に思われるかもしれません。
光軸が変わってしまう原因としてはいくつも考えられますが、代表的な原因は以下のようなことが挙げられます。
- 工事中や未舗装路など過度な凸凹道を走行したこと
- 前輪だけ、または後輪だけといったような、極端なタイヤの偏摩耗
- サスペンションの劣化
- ヘッドライトバルブや、ヘッドライト本体の交換後
- 衝突などの物理的な要因
以上のように、ヘッドライトの光軸が変わってしまう要因はいくつもあり、普段何気なく車を使っているだけでも、車検で不合格になることは十分あり得ることなのです。
車検における光軸

ヘッドライトテスター
実際の検査では、ヘッドライトテスターを使い、明るさ(カンデラ)と、光軸が検査されます。
その際の基準は、ハイビーム(走行灯)と、ロービーム(すれ違い灯)によって分けられ、前方10mの位置において、照明部の中心の位置を基準にして、以下の表に挙げた範囲内に無ければいけません。
このように、ハイビームは焦点(最高光度点)が、ロービームはエルボー点が、保安基準によって定められた範囲内に無ければ不合格になってしまいます。
ロービームでの検査の義務化
平成10年9月1日以降に製作された自動車については、原則ロービーム(すれ違い灯)での検査とされていますが、法改正当時、指定工場に設置されていたヘッドライトテスターの多くが、ロービーム(すれ違い灯)に対応していなかったのです。
そこで、猶予期間として、平成10年9月1日以降に製作された車であっても、ハイビームとロービームのどちらでも検査を受けられる状態が続いていました。
そして、平成27年9月より、本来の基準が懸隔に適用されるようになり、ユーザー車検や持ち込み検査を行う認証工場などでは、不合格になる割合が激増。
その理由は、ロービーム検査になったことで、光度不足や、エルボー点が正確に認識されないなど、年式の古い車では、最悪の場合ヘッドライトユニットの交換しなければならないケースまで出てきてしまいました。
また、光源とリフレクター(反射板)の位置関係が1mm狂うだけでもエルボー点やカットオフラインが出なくなってしまうことがあり、社外のHIDキットに交換している車などは、不合格になる確率がかなり上がってしまったのです。
もちろん、法律で定められていることですので、ロービームで合格できるようにしなければなりませんが、年式が古いなど、どうしてもロービームでの合格ができない場合、検査場や検査官によっては、ハイビームでの検査に切り替えてくれることがあります。
ただし、地域により違いがあり、あくまでも現場の検査官次第となるため、どうしてもダメと言われてしまった場合は、ヘッドライト本体の交換をしなくてはなりません。
自分で光軸を調整する方法
これから、ユーザー車検に挑戦する、またはヘッドライトバルブを交換した場合など、業者に依頼せず、自分で光軸を調整する方法をご紹介します。
ただし、上記でも触れた通り、例え完ぺきに調整できていたとしても、検査場までの移動で動いてしまう可能性がありますので注意してください。
正確に調整する方法
まずは車検前や、ヘッドライトバルブの交換後などにしっかりと調整する方法です。
暗いところで行う
当たり前のことですが、光の向きを調整するため、日の当たる場所ではなく、日陰や夜間など、できるだけ暗い場所や時間を選びます。
そして、平らで且つ、垂直な壁や塀のある場所で行わなければなりません。
この時、ヘッドライトレベライザーは「0」、車内の重量物も降ろしておきましょう。
距離と高さを図る
壁や塀に対して垂直で、1mの位置に停め、地面からヘッドライトの中心点までの距離を測定。壁や塀には、測定した高さで、地面と平行になるようにテープなどで印をつけます。
さらに、ヘッドライトから見て、真っ直ぐな位置を見極め、左右それぞれの位置に垂直に印を付け、ヘッドライトの正面に十字の印が2つできるようにしましょう。
調整
上記の表を参考に調整を行いますが、表は10m先を照らした場合の値ですので、1m先の場合は、さらに1/10の値で調整しましょう。
調整はヘッドライト裏にある調整用ネジを回しますが、車種によっては細長いドライバーが必要になります。
ユーザー車検に落ちてしまった場合の調整方法
次に、ユーザー車検で車検に落ちてしまった場合に、時間をかけずに調整する方法をご紹介しますが、あくまで簡易的な方法であり、左右どちらかのヘッドライトが不合格の場合に使える方法であることをご理解ください。
壁にライトを照射
日陰で、且つ平らな場所を選び、塀や壁に向かって車を垂直に停車します。
光の位置をマーキング
ロービームの場合はエルボー点を、ハイビームの場合は一番明るく見えるところにそれぞれテープなどで印を付けます。
合格した方のライトに合わせる
そして、左右の光の当たり具合や印の位置などを見比べ、不合格になってしまった方のヘッドライトを、合格したヘッドライトに合わせます。
不安な場合はプロにお任せする
左右のヘッドライトが不合格になってしまった場合や、調整できるような場所を探したり、自分で調整したりするのが面倒で不安という方は、検査場近くにあるテスター屋さんで調整してもらいましょう。
ヘッドライトの光軸だけがダメとわかっていれば、1,500円~2,000円程度の金額で調整してもらうことが可能です。

まとめ
ヘッドライトの光軸は、車検で不合格になったときだけでなく、本来はヘッドライトバルブを交換した場合などでも調整することが理想です。
自分の車は自分で手を加えることは、車に対して愛着が沸き、是非挑戦してもらいたいところですが、やはり間違った方法で調整してしまうと、車検に不合格になるばかりか、無理をするとヘッドライト本体を破損してしまう恐れもあります。
また、上向きにし過ぎると対向車に迷惑にもなりますので、調整する場合には下向きにすることを基本にしましょう。