その車検の見積金額、本当に適切でしょうか?
業者に車検を委託し、工場に車を入庫させると、まず見積もりを取ることになります。
そして、業者はユーザーに対して提示および説明する義務がありますので、よっぽどの常連か、親族が整備工場を営んでいるなどの特殊な状況でない限り、必ず見積もりは発行され、目を通すことになるのですが……。
問題は、その提示された見積書の金額を見て、正当な金額なのか否かを見極められるかにあります。
正直な話、提示された見積書に書かれている金額が、本当に適正金額であるかどうかは、一般の方には判断しづらいです。
よって今回は、自動車整備士であり、自動車検査員である私から見た、見積金額が適切かどうか判断するポイントをいくつか紹介していきます。
基本料金の違いを知る
車検にかかる「法定費用」はどの業者に委託しても同じですが、その他の料金には車検の委託先により違いが出てきます。
まずは、その代表的なものを見ていきましょう。
業種別車検基本料金
車検基本料金とは、重量税、自賠責、登録印紙代からなる「法定費用」と、その工場が独自に定めた「法定点検料や手数料」を足した金額を指します。
各業種別の車検基本料の違いは以下の通りです。
業種名 | 車検基本料金 |
国産車ディーラー | 30,000 ~ 50,000円 |
輸入車ディーラー | 40,000 ~ 60,000円 |
民間車検場 | 25,000 ~ 40,000円 |
車検専門店 | 10,000 ~ 25,000円 |
カー用品店 | 15,000 ~ 30,000円 |
ガソリンスタンド | 10,000 ~ 25,000円 |
※フェラーリやGT-Rなどのプレミアム車種は除きます。
このように、依頼した業種によって大体の車検基本料の相場がありますので、もし大幅に高い場合は、何か特別な項目が追加されている可能性や、重複などの記載ミスの可能性も考えられるため、注意したいところです。
諸費用と法定費用は違う
見積書の書き方は自由なため、中には非常に分かりにくい書き方をしてしまっている工場があります。
そのため、「諸費用」と「法定費用」が同じ意味として捉えられてしまうことがありますが、本来の意味は全く違うと理解しておいてください。
法定費用とは?
先述した通り「重量税、自賠責、登録印紙代」が法で定められた費用であり、この3項目以外は、法定費用とは呼びません。
※ナンバー変更や住所変更などの手続きを特別に依頼している場合は除く
諸費用とは?
法定点検費用や実際に行う整備内容や交換部品以外にかかる費用で、法定費用も含めた残りすべての項目が諸費用となります。
法定費用とそれ以外手数料などを、諸費用という欄にすべて記入している見積書を多く見かけますが、法定費用と同じ欄に書かれているからと言って、法で定められた必ず支払わなければいけない費用ではありません。
混同しないように注意しましょう。

工賃の考え方
上記のように、車検の見積書というのは小難しい言葉や専門用語が並んでいるため、一般の方には少々わかりにくい点が多いものになります。
さらに、何か追加で修理や、整備を行わなければならなくなった場合はもっと厄介です。
それこそ普段お目にかかることない部品名称や、どういう作業なのか全く想像できない作業内容が記載されてくると、例え大きな金額でも促されるまま払ってしまいかねません。
しかし自動車整備の工賃は、ある一定の決まりがありますので、それほど大きく逸脱するということは少ないのですが、中には適当な工賃を見積もっている工場も見かけることがあります。
よって続いては、工賃の基本的な部分について紹介していくことにしましょう。
作業工賃の決め方
作業工賃は、日本自動車整備振興会連合会(通称:日整連)が全ての整備作業に対して、主な国産自動車の定期点検及び一般整備作業の標準的な作業時間を示した「標準作業点数(工数)」を、メーカー別に各装置ごとに設定しています。
各工場ではこの「標準作業点数(工数)」に、工場が独自に設定した1時間あたりの作業工賃「レバレート」を乗じて算出しています。
(例:標準作業点数1.6×レバレート8,640円=13,824円)
ただし、この標準作業点数(工数)はあくまで参考とされていて、法律的な縛りがあるわけではありません。
標準作業点数(工数)が当てはまらない作業
この標準作業点数(工数)は、国産車を基準にしているため輸入車には当てはまりませんし、例え国産車であっても、発生するすべての作業に定めることは不可能です。
そのため、標準作業点数(工数)が決められていない作業も当然、発生します。
その場合、ディーラーであればメーカーの整備書に記載のある時間を適用し、資料を持っていない整備工場では、ディーラーに問い合わせるなどして算出しています。
しかし単純、もしくは単一な作業ばかりではなく、複数の整備箇所が複合的に関係している作業や、ほとんど前例のない内容の作業が発生することも珍しくありません。
このように、実際の整備の現場では、作業工賃をすんなり算出できない場面が意外と多く、最終的には担当の整備士やサービスフロント、または工場の管理者が決めている場合が少なからずあるのです。
作業工賃の目安
標準工賃よりも少なく見積もっているならまだしも、異常に多く見積られてしまってはいけません。
ここからは標準的な作業の目安をピックアップして見ていきますので、正当な相場観を覚えて判断できるようになりましょう。
作業名 | 標準作業点数(単位h) |
エアクリーナ交換 | 0.1~0.5 |
ブレーキオイル交換 | 0.2~0.8 |
ブレーキパッド交換(フロント左右) | 0.5~1.5 |
ドライブシャフトシャフトブーツ交換(割りブーツ使用) | 0.5~1 |
ファンベルト交換(1本掛けベルト) | 0.3~0.8 |
タイミングベルト交換 | 2~5 |
エンジン脱着 | 7~12 |
※一般的な国産車です。
※上記の表はあくまで目安ですので、全ての自動車に当てはまるものではありません。
ただ、もし大幅に金額が高い場合は、どういう作業なのかを質問することで、工場側から説明を受けられますので、なんとなく決めた工賃や、実作業時間の工賃算定を防ぐ、一つの材料にしてみてください。
複数の業者に見積もりを取る
車検にかかる費用のうち、法定費用以外の金額は委託する工場によって大きく違ってくることがあり、一つの整備工場の見積だけでは、作業工賃と部品代が適切かどうかを見極めることはまず不可能です。
こうした金額が適正であるかどうかを判断するためには、比較することが非常に重要になります。
そのためには、複数の業者に見積を取る必要があるわけです。
複数の業者に見積もりを取る場合のポイント
複数の業者に見積書を出してもらう際は、ただ闇雲に工場を回って見積りを取るのは現実的な方法とは言えません。
特に普段は仕事をしている人にとって、せっかくの休日を浪費するのは非常に痛手です。
こうした忙しい方のために、効率的でかつ有効なポイントご紹介していきます。
ポイント1:ディーラーから回る
まず最初に見積を取るなら、ディーラーから回るのがオススメになります。
何故ならディーラーで見積りを取れば、標準的な工賃や純正部品の金額を知ることができるからです。
そうすれば他の店舗に回った際に、適正かどうかを判断しやすくなります。
ポイント2:各業種1店舗に絞る
2つめのポイントは、見積書を取る際は各業種で1店舗にすることです。
同じ業種間では大きな金額差は生まれづらく、比較するメリットがほとんどありません。
そのため「ディーラー、車検専門店、民間車検場」のように、それぞれ各1店舗ずつ、計3件程度は回ることがオススメです。
ポイント3: 他業種(店舗)の見積は見せない
実際に接客をしていると、「○○でこんな見積出されたんだけど」と言って、他の工場の見積書を出す人がいます。
これは「この見積より安くしてほしい」という意味合いかもしれませんが、実は逆効果です。
確実に保安基準不適合となるような項目は別として、点検(検査)した整備士(検査員)の裁量によって合否の判断が別れることも少なくありません。
また、場合によっては、フラットで公正な判断を欠いてしまう原因にもなりますので、あまりオススメできないやり方です。
他の工場の見積に左右されるような工場は根本的にオススメしませんが、価格交渉の材料として総額だけ伝えるというのは有効な方法になります。
よって、行うのであれば見積書を見せるのではなく、総額を伝えるのがオススメです。
ポイント4: 価格だけで判断しない
違う業種の工場であっても、同じ整備項目が記載されていることは当然ありますが、他にもその工場独自の項目が追加されている場合があります。
つまり、その独自の項目がなぜ必要なのか、説明をきちんと行ってくれる工場は信頼に値する工場の可能性が高い工場だと言えるわけです。
また、お店全体の雰囲気や、待合室、可能であれば工場内部の様子を目で見ることで、その工場の質を見極めることができます。
実際の整備とは、一見すると無関係と思える内容ですが、その工場の提供している車検の質に大きく関わる内容として、工場選びの参考にもなるので目を光らせてみてください。
車検比較サイトを利用する
これまでは実際にいくつかの工場を回ることを推奨してきましたが、少ない店舗数でも、実際に回るとなると丸1日がかりになってしまうかもしれませんし、何より大変て手間になってしまいます。
そこでオススメなのが、車検比較サイトの活用です。
サイトの形態により違いはありますが、24時間いつでもその場で金額がわかったり、直接工場とのやり取りができたりと、わざわざ出向かなくとも大体の車検金額を知ることができます。
ここでさらに車検比較サイトの有効な活用方法として私がオススメしたいのが、実際に見積をする工場を絞るために使うという方法です。
車検を実施している工場は意外と多く、「こんな近くにあったんだ」なんて発見があるものですし、手間と時間をかけて見積を取るわけですから、回る工場はできるだけ多くの候補から厳選した方が、より納得した見積や車検ができます。
手間や金額を省くためにも、是非とも利用してみてください。
