車検は車を所有するオーナーにとって、必ず受けなければならないものです。
しかし自動車の維持費のうちで一番大きなウエイトを占めているため、少しでも安く車検を受けたいと考えている方は非常に多いと思います。
そんな時、ある意味で究極の方法とも言えるのが「ユーザー車検」です。
一般の方からすると馴染みのない単語かもしれませんが、このユーザー車検をすることによって格段に費用を抑えることができます。
しかし、実際にユーザー車検を行うには、事前の準備や車両の整備を自分自身で行い、車検場に持ち込んで検査を受けるのも半日がかりの仕事(しかも平日)になるため、そのハードルは結構高いのが実際です。
そんな方のために、ユーザー車検を代行してくれる業者が「ユーザー車検代行業者」です。
しかし、ユーザー車検を代行してくれる業者なんて…いかにも何となく怪しい響きがあり、「裏車検(不法な車検対策業務)でもやっているのでは?」「いい加減な商売なのでは?」と勘繰りたくなります。
今回は、そんな謎の多いユーザー車検代行業者に関するメリットやデメリット、そして相場観などを紹介していきましょう。
そもそもユーザー車検とは?

そもそもユーザー車検とは?
多くの場合、車検はディーラーや車検専門店などの業者に委託して行っていると思いますが、実はユーザー自身で行う車検というものが存在します。
それこそが、ユーザー車検であり、それを有料で代行してくれる業者が、ユーザー車検代行業者と呼ばれています。
安くは済むものの、とにかく面倒くさいユーザー車検を代行してくれる業者という訳です。
もしかしたら、何となく聞いたことがある方もいると思いますし、一度は挑戦してみようと思われている方もいらっしゃると思います。
しかし、どのようにやればいいかもわからないし、ユーザー車検や、代行業者に依頼なんて専門的な知識がないとできないと手を出しあぐねている方も少なくないのではないでしょうか?
そんな方のために、まずはユーザー車検の基礎的なことについて紹介していきます。
ユーザー車検の基本的な流れ
まずは、ユーザー車検の基本的な流れについて見ていきましょう。
・検査場に予約を入れる
・自賠責保険の契約、必要な書類作成を行う
・自動車検査法人の窓口で受検申請
・検査ラインに車両を持ち込み、保安基準の適合審査を受ける
・窓口に検査書類一式を持ち込み、自動車重量税を印紙にて納付する
・車検証と検査標章(ステッカー)の交付を受ける
こちらはあくまでも基本的な流れですので、必要であれば私設予備検査場(テスター屋)に持ち込み、必要な調整・補修等を行うこともできます。

車検は使用者の責任?
法律的な解釈で説明すると、車検とはユーザーが責任を持って、法律に定められた車検証の有効期間を更新するために、国の検査を受けるものになります。
とは言え、全てのユーザーが自分で車検を受けることは、時間的にも知識的にも不可能なため、多くの方が対価を支払って業者に車検を委託しているのです。
また、本来であれば国が検査を行うことが原則ですが、全ての車を検査することは物理的に不可能であるため、国から認証を受けた整備工場で点検を行い、各運輸支局の検査ラインを通すか、国から指定を受けた指定工場で点検・整備・検査までを行う方式がとられています。
整備士ではない代行業者でもユーザー車検は可能?

整備士ではない代行業者でもユーザー車検は可能?
ユーザー車検について人から受ける質問で意外と多いのが、「整備士でなくとも車検は可能なのか?」というものです。
上記でも述べているように車検と点検は全くの別物であり、車検とは自動車の検査であるため「車検証の有効期限を更新する=車検を取る」ことは、どなたでもできます。
従って、ユーザー車検代行業者が国家整備士でないケースはしばしば該当しますし、これこそが、ユーザー車検業者に業務を依頼することの不安につながる最たる要因となっていることも、間違いないでしょう。
整備士でなくてはできない作業内容も当然ある
上記のとおり車検は誰でも受けることはできますし、合格すれば車検証の有効期限は更新されます。
では、整備士でなければできないこととは何かというと、下記で説明する重要保安部品とされている箇所の分解整備です。
正確に言うと、他人の車の重要保安部品の分解整備は有償・無償問わず法律で禁止されています。逆に、自分の車であれば法律上なんの問題ありません。
ただし、重要保安部品というくらいですから、車にとってというよりは、安全上とても重要な箇所ですので、素人の方が自分で分解されることはあまりオススメできませんし、当然、整備士資格を持たないユーザー車検代行業者も、絶対に触れてはいけないこととなっています。
重要保安部品とは
まず、厳密に説明しますと、法律に「重要保安部品」という文言は一切出てきません。
実際の法律では、「道路運送車輌法施工規則第三条 法第四十九条第二項 の分解整備とは、次の各号のいずれかに該当するものをいう。」となっています。
この「次の各号」とは、大雑把に言うとエンジンの脱着、ブレーキ廻り、変速機廻り、サスペンション廻り、アクスル(車軸)廻りのことです。
何かの整備を行おうとしたとき、自動車本来の働きである、走る・止まる・曲がるに関係する箇所の脱着や調整などが、すべて分解整備に該当します。
例を見てみましょう。
「重要保安部品に関係のない「あるボルト」を外そうとしたところ、エンジンマウントが邪魔だったのでエンジンマウントのボルトを緩めて外した」
これは「原動機を取り外して行う自動車の整備又は改造」に該当し、いわゆる分解整備になります。
あまり一般の方が人様の車の整備をすることはないと思いますが、例え自分の車であっても、ほんの少し危険かな?と思ったら、決して、(無資格の)ユーザー車検代行業者に触らせたり、自分自身で触れてはなりません。プロの整備士に依頼してください。
ユーザー車検のメリット・デメリット

ユーザー車検のメリット・デメリット
ここからはユーザー車検のメリットとデメリットをあげていきたいと思います。
ユーザー車検のメリット
車検費用が安い
ユーザー車検を選択する最も大きなメリットは、車検費用が格安に済むということです。
通常、業者に車検を委託する場合は、当然ですが多額の工賃や手数料が発生します。
ところがユーザー車検なら、何も追加整備などを行う必要がなければ陸運局に支払う手数料のみです。
その日に終えられる
これも追加整備等がない場合に限られますが、陸運局(軽自動車検査協会)に着き、書類の申請、検査ラインと一通りの工程にかかる時間は1時間程度です。
つまり、午前中の1ラウンドであれば、午前10時には車検を終えることができます。
自分の車について詳しくなる
知っているようで知らない、ご自分の車の構造的な基本知識や、保険、税金のことなどを再確認できます。
基準があまい
まず誤解のないように強調しますが、保安基準に適合しない車は絶対に車検には通りません。
ただし、民間の指定工場には社内規定というものがあり、若干ではありますが国の定める保安基準より厳しめにしている項目があります。
そういった項目が、本来国が定めている最低限の基準での判定となるため、比較的受かる確率が高いということです。
ユーザー車検のデメリット
安全が保証されるわけではない
あくまで車検は、その時に、その車が、国が定めた基準に適合しているかを確認しているだけに過ぎないため、車検に合格したからといって、しばらく安全で故障しないという保証は全くありません。
法定点検(24か月法定点検)は別物
当然のことながら、法定点検(乗用車24か月、貨物車1年)は付いていませんので、自分で行うか、法定点検のみ整備工場などに別途予約をして行う必要があります。
平日しか実施できない
運輸支局(軽自動車検査協会)は、土日祝日(年滅年始)はお休みですので、平日の9~17時(受け付けは16時まで、12時~13時は昼休み)の間しか受けることができません。
従って、普通に働いている方にはユーザー車検の大きなネックとなり、ユーザー車検代行業者がありがたがられる理由の1つにもなっています。
万が一の場合は余計に手間がかかる
万が一の場合とは、車検に落ちてしまった場合のことです。
ライトの向きがおかしい程度であれば、そこまで手間はかかりませんが、オイル漏れや制動不良(ブレーキの利き)など、車検に落ちる事例はいくらでもあります。
もし手間のかかる整備が必要になった場合は、整備工場を探し、整備し、後日改めて車検場に出向かなければなりません。
必ずしも安く終わる保証は無い
不適合箇所が指摘されてしまったら、その個所の修理を行わない限り車検に合格することはできません。
上の手間というところと同じなのですが、改善しなくてはならない項目が一つでも、その原因がいくつも隠れている可能性があります。
そうなった場合、何度も検査場に通うことになったり、二度手間三度手間になったりとなれば、時間とその分の費用がかさんでしまうわけです。
修理する内容は同じでも、初めから業者に依頼した方が結果的に安く、手間もかからないというケースも少なからずあります。
ユーザー車検にかかる費用は?
それでは、実際のユーザー車検ではどの程度安いのか見ていきましょう。
軽自動車第2号様式用紙代・・・30円
検査手数料・・・1,400円
合計・・・1,430円
継続検査申請書3号様式用紙代・・・30円
検査手数料・・・1,700円
合計・・・1,730円
見て分かる通り、ディーラーなどの車検と比べると異常なレベルで安いです。そう、何も追加整備をしなければ、この金額で済んでしまいます。
もちろんこの他に重量税や自賠責はかかりますが、カーディーラーやカー用品店に委託することを考えれば格段に安く済む可能性があるのです。
軽自動車2,500円~8,800円
小型・普通車5,000~75,600程度

軽自動車26,370円
小型・普通車27,840円(平成26年現在の保険料)

ユーザー車検代行業者に対する大きな誤解
また、大きな誤解として「ユーザー車検代行業者は、車検を通す前の整備もやってくれる」「法定点検(24か月点検)もやってくれる」というものですが、これは大きな間違いです。

上記のページでも説明している通り、国家資格整備でないユーザー車検代行業者の場合は、車検前に車両の重要保安部品(特に、車検で重要視されるブレーキ回りなど)整備をすること自体ができませんし、車検に失敗した後も、認定工場でないユーザー車検代行業者では、満足する整備修正をすることがほぼ不可能です。
また、いくら代行業者を通したとはいえ、やっていることは「ユーザー車検」の範疇から出ない以上、24か月法定点検はやはり自分自身で行わなければなりません。
法定点検は車両の使用者に対する義務だからです。
こういった点を勘違いして、
- 近年では認定工場のユーザー車検代行業者がいるので、点検整備もしてくれる
- 法定点検も同時に行ってくれるユーザー車検代行業者がある
という、大きな誤解がはびこりつつあるので重々注意してください。
確認しますが、ユーザー車検代行を行う認定工場は存在しませんし、24か月法定点検を同時に請け負うユーザー車検業者も存在していません。
絶対に誤解をしないように、注意してください。
まとめ – ユーザー車検代行業者の利用は慎重に

まとめ – ユーザー車検代行業者の利用は慎重に
自動車の維持費はいろいろとありますが、定期的に行わななければならない車検は大きな負担です。
しかし実際のところ、車検にかかる費用のうちの大半が税金や強制保険でいわゆる法定費用だったりします。
そのため業者に依頼せず、自分で行うユーザー車検は業者に支払う手数料が全くかからないため、自動車の維持費の中でも大きなウエイトを占める車検費用を大幅に節約できるのです。
そして自動車整備士としては、自動車の基本的な仕組みや車検制度を知ってもらう良い機会になるとも思いますので、ぜひ一度は挑戦してみるのも良いのではないかと思います。
しかし、あまり大きな声でオススメはしません。
それは何事もそうかもしれませんが、大きなメリットがあれば、それなりのデメリットも表裏一体であるということです。
上記のメリット・デメリットでも書いていますが、「ユーザー車検は必ずしも早く・安く終えられる保証はない」ことと、「本来の法律の考え方である、使用者責任に基づいて、車の安全を確保する必要がある」ということは、忘れずに頭の片隅にでも入れておいてください。