ひと昔前、車検は数日から1週間かかるのが普通でした。
ところが最近は、1日車検ということが当り前になったどころか、1時間や45分などで完了する超短時間車検を売りにしている店舗が多くなっています。
今回は、そんな1時間車検について深く掘り下げるとともに、メリットやデメリット、相場感を紹介していきます。
車検を1時間で完了できるカラクリは?

車検を1時間で完了できるカラクリは?
生産性の向上
整備工場として営業している工場で、自動車の整備のみで経営しているところは、ほとんどありません。
その業務というのは、本業である整備やボディーコーティング、新車や中古車の売買、お客様や取引先への引き取り納車など、非常に多岐にわたります。
また、本業の整備一つとっても単純ではありません。
まず不具合を訴えていらっしゃるお客様に話を聞く問診・受付に始まり、訴え事項をもとにした故障探求および点検、見積の作成と提示、部品発注とスケジュール調整、整備作業を経て、納車と会計となります。
このように1台の車に複数のスタッフが関わり、複数の案件と並行しながら業務を進めているのです。
そのため従来の車検では、車検以外の業務と他の案件を同時で進行しているため、数日以上の日数が必要でした。
しかしニューサービス車検の登場以降、ニーズの多様化や車検単価の下落などの影響もあり、今までの車検の進め方では採算が合わない事例が多く発生してしまいます。
そこで通常の業務と車検業務を分けて考え、車検をできる限り効率的に、かつ集中して行う体制を作り、車検1台あたりの単価が安くとも、台数を確保し生産性をあげる方向に業界全体がシフトしていったのです。
規制緩和
車検の時間を大幅に短縮する大きなきっかけとして挙げられるのが、平成6年の道路交通法改正に伴う規制緩和の一環として制定された「ニューサービス車検」です。
これまでニューサービス車検以外にも車検制度は何度も改正されてきましたが、このニューサービス車検が短時間化の最大のポイントと言われるのは、点検項目が減少したことに尽きます。
1995年の車検制度の改正と共に、それまで100項目以上あった24か月点検が、56項目に削減されたのです。
単純に約半分ですので、それまで点検に1時間近くかかっていたものが、30分もあれば完了でき、点検にかかる時間も大幅に削減されました。
それまでの、「厳正に細部まで点検する車検」から「使用者責任での品質保持」に捉え方が変わるきっかけとなった「ニューサービス車検」と相まって、車検にかかる時間が大幅に短くなったわけです。
1時間車検のメリットとデメリット

1時間車検のメリットとデメリット
今や多くの整備工場で導入されている1時間車検には、どのようなメリットとデメリットがあるのかまとめてみました。
1時間車検のメリット
時は金なり
1時間や45分などの短時間車検を選択される1番の理由は、やはりその時間でしょう。
車検の間に近くの店舗で買い物や食事をしてくるなんてこともできますので、待ち時間を有効に利用できます。
立会い車検がほとんど
店舗で待っていることが前提ですので、当然、実際に車を見ながら点検結果の説明を受けることになります。
余計な過剰整備を防ぐことができますし、工場側としても物を見ながら説明できるため、ユーザーに納得して整備を受けてもらうことができるので、立会い車検はとても有益なのです。
代車が不要
店舗で待ってもらっているため、基本的には代車が必要ありません。
そのため代車の予約などの心配もいらず、なにより代車を用意する経費を削減できるため、車検価格全体の単価を下げることができる効果があります。
1時間車検のデメリット
予約時間は厳密
短時間で車検を終わらせることは、生産性の向上という点では工場にとっても有益です。
また、ユーザーの希望時間もありますので、できる限り隙間なく予約を入れていきます。
そのため自分の車検の前後に他のユーザーの車検が入っていることが多く、予約時間に遅れてしまうと、希望通りの時間終わらない可能性が高いです。
必ずしも1時間で終わる保証はない
当然のことですが、車検に通らない箇所がある場合には修理をしなくてはなりません。
例えそれが工場に在庫のあるような部品の交換だとしても、1時間で終わらせるのであれば、エンジンオイルかバッテリー交換程度の追加整備が限度です。
早ければ良いとは限らない
車検とは、国が定める最低限の安全・環境基準(保安基準)に適合しているかを確認することです。
優先されるべきは時間や価格ではなく、安全や安心であることを、工場はもちろんユーザー側も忘れないようにしましょう。
1時間車検にかかる費用は?

1時間車検にかかる費用は?
1時間車検は従来の車検に比べ安くなる傾向にありますが、実際の相場を、代表的な国産車ディーラーと比較して見ていきましょう。
※例:小型自動車(~1.0t未満、ヴィッツやフィットなど)
国産車ディーラー
合計・・・\37,800
合計・・・\38,880

車検専門店
スーパーテクノ・・・\ 15,820(最大割引適用後¥12,580)
合計・・・\19,116

カー用品店
合計・・・¥15,120
合計・・・\15,000
※イエローハットについては店舗により1時間車検を実施していない場合があります。

ガソリンスタンド
合計・・・¥25,500(最大割引適用後\9,500)
合計・・・¥16,500(最大割引適用後\13,500)

上記にサンプルとして抽出した各店舗は、ディーラーを含め公式に1時間車検を謳っています。
そしてガソリンスタンドについては、指定工場を併設している店舗限定です。
指定工場を取得するには、設備、人員など多くのハードルがあり、ガソリンスタンド系の業者では、何店舗かを集約する形で指定工場を持っていることが多く見受けられます。
また、俗にフリート系と呼ばれる全国的に展開している石油小売り業者(宇佐美や、太陽など)や、地元で長く経営しているガソリンスタンドでは、元売りブランドの車検ではなく、独自の車検メニューとなっていることが多いです。

1時間車検 価格比較表
車検依頼先 | 金額 |
国産ディーラーA社 | ¥37,800 |
国産ディーラーB社 | ¥38,880 |
車検専門店(コバックA店) | ¥15,820 |
車検専門店(チャレンジ車検A店) | ¥19,116 |
カー用品店(オートバックスA店) | ¥15,120 |
カー用品店(イエローハットA店) | ¥15,000 |
ガソリンスタンド(ENEOS A店) | ¥25,500(最大割引適用後\9,500) |
ガソリンスタンド(COSMO A店) | ¥16,500(最大割引適用後\13,500) |
車検総額は上記の店頭表示価格だけで済む?(答えはNo!)
※尚、上記の金額に加えて、必ず支払わなければならない法定費用(自賠責保険2年分、3万3千円程度、自動車重量税2年分、約20,000円~、印紙代等…通常は合計6~7万円前後)がプラスされることを忘れないでください。
※また、上記金額は劣化パーツ交換、消耗品交換などを全く行わなかった場合の金額ですので、実際の車検時にパーツ交換や消耗品交換があった際は、更にその分のパーツ代、消耗品代、工賃が上乗せされていきます(国産で2~3万円、輸入車の場合、故障がなくとも、5万~10万円前後の交換費用は見込んでおくべきでしょう)。

1時間車検のポイント

1時間車検のポイント
愛車に合わせて選ぶ
誰でも、車検は早くて安く仕上がることを望んでいます。
走行距離が30,000km未満の車や、初回車検または2回目の車検くらいの車には良いかもしれませんが、新車登録から10年以上経過した車や100,000km以上走行している車両には、1時間や45分車検はオススメできません。
短時間車検だから点検などが適当になるなんてことはありませんが、やはり自動車は機械物ですので、どんなにメンテナンスが行き届いていたとしても、劣化や摩耗などで交換しなければいけない箇所は出てきます。
つまり、経年車や過走行車は1時間や45分で車検が終わるという前提で車検を受けても、終わらない可能性のほうが非常に高いです。
もちろん、もう少し長い時間(2時間程度)を想定しておけば、多くの車が待っている間で車検を行えます。
そこでオススメの方法は、まず見積を取り、整備作業や完成検査を違う日に受けるというやり方です。
厳密には2度手間になりますが、見積を家に帰ってからじっくり吟味することができますし、慣れない代車を無理やり運転する必要がなくなります。
日頃のメンテナンス
オイル交換やタイヤローテーションなどのメンテナンスは、いざやろうと思っても時間がなく、ついつい先送りにしがちです。
正直に言って、整備士の私でさえそう思って先延ばしにしていることはあります。
しかし車検の時に行ってしまうと、1時間で車検は終わりません。
そして皆さんに理解しておいて頂きたいのが、全く点検などをせず、交換時期や不具合の前兆にすら気が付いていない場合は、余計に時間と費用がかかる可能性が高くなります。
そのため定期的な点検や、ちょっとでも気になることがあれば、近くの整備工場やガソリンスタンドに相談してみましょう。

まとめ – 短時間でもきっちり仕事をする業者を優先する

まとめ – 短時間でもきっちり仕事をする業者を優先する
殆どの業者は1日車検であろうと1時間車検であろうと、見落としや整備ミスがないよう、しっかり仕事をしてくれます。
しかい、ごくごく一部の業者の中には1時間車検となったとたん、点検がおざなりになってしまう業者も存在することは否定できません。
車検は安く、早く終えられれば、それに越したことはありませんが、やはり安全や安心が最も重要なことです。
そのためには何店舗か業者を回って、金額、時間、サービスの比較はもちろん、お店全体や工場の雰囲気なども参考にして、より信頼できる工場に依頼するようにしましょう。