普段の生活で自動車を使用している時に、最も意識されていない油脂類と言えるのが、デフオイルではないでしょうか。実際、エンジンオイルやATフルードのように、ガソリンスタンドやカー用品店などで交換を勧められたことがある人は少ないはずです。
それは整備をする側も同じで、ユーザーにオススメすることは滅多にありません。しかし油脂類である以上、劣化もしますので、ある程度の年数や距離により交換は必要です。ここでは、そんなあまり知られていない「デフオイル」について紹介していきます。



そもそもデフとは何か?
少し専門的な単語のため難しそうに思うかもしれませんが、デフといわれる機構は自動車がスムーズに走行するためには無くてはならない装置です。そのため、愛車を長く経済的に維持していくためにも、知っておくべき知識の1つと言えますので詳しく説明していきましょう。
デフとは
デフとは、正式には「デファレンシャル」といい、日本語に訳すと「差動機構」となります。正直な話それだけ聞いても意味がわからない上に、小難しい響きに聞こえますね。
簡単にこのデファレンシャル機構がどういう役目を担っているか説明すると、自動車が交差点やカーブなどを曲がるときに作動します。自動車がカーブを曲がる時、内側と外側のタイヤでは前後で回転差が生じますが、その回転差を吸収してスムーズな旋回ができるようにするのが「デファレンシャル」なのです。
また、回転差を吸収する以外にも、最終変速機としての役割もあります。なお、変速と言っても変速比が固定されていますので、ミッションののように切り替えるわけではありません。
デファレンシャルの種類
自動車に使われるデファレンシャルには、フロント・センター・リヤの、3種類のデファレンシャルがあります。この3種類のデフが主に使われているのは、以下の駆動系の自動車になります。
前輪駆動の自動車:フロントデフ
後輪駆動の自動車:リヤデフ
4輪駆動の自動車:フロントデフ、センターデフ、リヤデフ
ここでポイントがあります。前輪駆動の場合、ATフルードがフロントデフオイルを兼用している場合がありますので、工場の方に確認してみましょう。取り替える手間と費用が省けますので、積極的に交換が行なえますよ。
特殊なデファレンシャル
一般的なデファレンシャルを通称「オープンデフ」と呼びますが、それに対し、特殊なデファレンシャルがいくつか存在します。左右の回転差を電気的に制御する「電子制御デフ」や、あえて左右の回転差を吸収せず左右それぞれの回転力を維持させようとする差動制限機構を備えた「LSD(リミテッドスリップデファレンシャル)」といった特殊なデフなどが代表的です。
デフオイルとは
デファレンシャル機構はすべての自動車に装着されていますが、走行中は常に高速に回転しているため、大きな力がかかっています。それを緩和させるためにデファレンシャル機構にはデフオイルが必ず必要になるわけですが、そうした役割以外にもデフオイルには以下のような役目があります。
1:潤滑剤としての役割
デファレンシャルには多くの金属部品が組みつけられています。デファレンシャルは常に高回転・高負荷で可動しているため、その金属同士が互いに触れた状態で作動していたとすると、互いに摩擦を起こして高温になり、スムーズな作動が出来なくなります。
デフオイルには物質同士の隙間に油膜という膜を形成し、物質どうしが互いに直接触れ合うことを抑え、摩擦を低減する役割があります。
2:冷却剤としての役割
デファレンシャルは、デファレンシャルの作動で発生する熱や、エンジンや排気ガスなどの周囲から受ける影響により、温度が高温になることがあります。これは非常によくない事態です。デファレンシャル本体が高温になることは、避けなければなりません。
デフオイルにはデファレンシャルの熱が上がらないための、冷却材としての重要な役割を果すしています。
3:防錆剤としての役割
デファレンシャルには多くの金属部品が使われており、変速などの作動時には摩擦熱などが発生するため、金属類は腐食しやすくなります。そのためデフオイルの油分により皮膜を形成し、金属が直接空気などに触れることを防いでいます。
4:洗浄剤としての役割
デフオイルにより油膜を形成していても、多少の金属や摩擦材の削り粉が発生します。デファレンシャルの作動部分に入り込んでしまうのは非常にマズイため、洗い流す必要が出てくるわけです。デフオイルには洗浄剤としての役割があり、マグネット付きのドレンボルトの作用により、鉄粉の除去を行っています。
デフオイルの交換目安と費用
デフオイルの交換目安時期は、2年または5万kmです。もちろん使用環境によって大きく左右されることになりますが、オイルである以上は空気と触れ合うことで酸化し劣化していきます。また、エンジンオイルやATフルードのように簡易的な確認はし辛い場所にあるため、車検や定期点検などの際に交換や点検してもらうのがオススメです。
デフオイルの種類と交換費用
一般的なオープンデフに使われているオイルと、電子制御デフやLSD付きデフといった特殊なデフのオイルの場合は同じものを使用してはいけません。それぞれの特性によってオイルの性質に違いがあり、電子制御デフやLSD付きデフには専用のオイルを使用する必要があるからです。
使用するオイルに関してですが、サーキットなどの特殊な条件で使用しない限り、特別なオイルを使用する必要はありません。使用するオイルの量に関しては、フロントデフで1リッター未満、センターやリヤデフでは1.2~1.5リッター前後の場合が多いです。
気になる費用ですが、一般的なデフオイルであれば1リッター2,000円程度、工賃が1,500円~ぐらいになります。LSDや電子制御デフ専用オイルの交換となると、使用するオイル代金だけでなく、交換方法が特殊な車種が多いため、交換を希望される場合は、工場の方に確認してください。
車検でのチェックポイント
車検ではデフオイル自体の汚れで不合格になることはありませんし、種類によっては量の確認もしていません。車検で不合格になるとすると、走行時の異音やオイル漏れの有無となります。異音やオイル漏れを未然に防ぐには、定期的なデフオイルの交換が不可欠です。車検を通すためにも、デフオイルは定期的に交換しましょう。
デフオイルを交換しなかった場合
一般的なデファレンシャルはエンジンとは違い、大きな熱などは発生しません。しかし、自動車が停止状態から前進や後退する時などに、とても大きな力が加わります。また、通常の走行時には常に高速で回転していますので、デフの作動を守れなくなります
そのためにも定期的な交換は不可欠なのですが、エンジンオイルやATフルードほど神経質になる必要はありません。車検を何回か受けるうちに1回交換する程度でも問題は無いですが、下記に挙げる症状が出たら要注意です。
発進時・再加速時の異音
自動車が停止状態から前進や後退をする時、または再加速の際に「カキン」「カコッ」といったような硬く少々こもった音が出ることがありますが、これは危険信号です。
デファレンシャルには元々バックラッシュという、歯車と歯車の間に隙間、いわゆる「あそび」が設定されています。デフオイルを長く交換していない場合、削れた金属の粉がデフオイルの中に多量に含まれてしまうため、歯車などの金属の摩耗を早めてしまうのです。
つまり先述した金属音は、最初に設定したバックラッシュよりも大きく広がってしまったがために鳴ります。こうした音を聞いた際には、速やかにデフオイルを交換しましょう。
走行時の異音
走行中、速度に応じて音程が高くなるようなうな音がする場合も、デフオイルが劣化していることが考えられます。こうした症状が表れるのは、デフオイルの劣化はもちろん、デフオイルに含まれてしまった金属の粉の影響です。この金属の粉が、デファレンシャル内部に組み込まれている「ベアリング」に干渉してしまい、スムーズに回転できなくなることで音が発生してしまいますので、この音を聞いてしまったらデフオイルを交換してしまいましょう。
旋回時にギクシャクする、または異音がする
旋回時にギクシャクしたり、異音がしたりする場合にもデフオイルの交換が必要になります。こうした症状はデファレンシャル本来の目的である、「車輪の回転差吸収」がスムーズにいかず、引っかかったような状態となるため発生するものです。
特に電子制御されたデファレンシャルの場合、走行状態や運転者の意思に追従するため、デフオイルの油圧を使い、左右や前後の回転差やトルクを常に変化させ制御しています。そのためデフオイルの交換を怠っていると、旋回時にギクシャクするような症状が比較的出やすくなりますので、より定期的な交換が不可欠です。
万が一にも異常が出てしまったら
上記のような症状が出てしまった場合、初期の段階や、異音や作動異常などが軽度であれば、デフオイルの交換で改善される場合があります。ただし異常が出てから時間が経っていたり、走行距離が延びてしまった場合は、デフオイル交換のみでは改善できないかもしれません。
そうなってしまうと、場合によっては高額な修理費がかかる恐れがありますので、異常を感じたら早めに近くの整備工場にご相談してみましょう。
まとめ
デフオイルはエンジンオイルやATフルードに比べると優先順位は下がりますが、それでも交換を怠れば同じように走行に支障が出てしまうことがわかっていただけたと思います。
そうした事態を避けるためにも、デフオイルの定期的な交換は欠かせません。もしも点検などで指摘された場合や異常を感じた際もそうですが、未然に防ぐためにも交換目安を参考にしてデフオイルの交換をしてみてください。