エンジンオイルが自動車とっての血液ならば、ラジエータ液は差し詰めリンパ液とでも言うべき重要な代物です。エンジンにとってエンジンオイルが必要なのと同じように、ラジエータ液は重要な油脂類になります。
ここででは、エンジンオイルの陰に隠れ、あまり知られていないラジエータ液についての紹介と、車検時におけるラジエータ液のポイントについて触れていきましょう。



ラジエータ液とは
ラジエータとは、エンジンを冷却するための装置です。そのエンジンを冷却するために使われている液体を「ラジエータ液」、または「冷却水」と呼びます。水という字が使われていますが、当然ラジエータ液は普通の水ではなく、専用に作られた液体で、LLC(ロングライフクーラント)と呼ばれています。
ラジエータ液に求められる性能
エンジンオイルなど油脂類に役割があるように、ラジエータ液にも果たすべき役割、つまり求められる性能があります。ここでは主に、冷却水に求められる性能について紹介していきましょう。
沸騰抑制
エンジンの冷却水が沸騰することを、一般的に「オーバーヒート」と呼びます。水は100℃で沸騰しますので、通常の水をエンジンの冷却水として使用した場合は、100℃になった時点でオーバーヒートしてしまうことになります。
しかし一般的に使用される冷却水の主成分は、アルコールの一種であるエチレングリコールなので、実際は平地ではおよそ3倍(濃度30~35%程度)、寒冷地ではおよそ2倍(濃度50%)に薄めて使用されています。そのため圧力などにもよりますが、およそ110℃~125℃程度までは沸騰ないわけです。
凍結防止
ラジエータ液は別名「不凍液」とも呼ばれます。真冬の夜中や明け方などは、関東でも気温が0℃を下回ることは珍しくなく、水たまりなどが凍っていることも珍しくありません。もしエンジン内の冷却水が普通の水だった場合は、外の水たまり同様0℃で凍ってしまうことになります。
万が一にもラジエータ液が凍ってしまった場合は勿論エンジンは始動できませんし、液体は凍ると体積が膨張しますので、密閉されたエンジン内では収まりきらず、ラジエータ本体やホースなどを破裂・破損させてしまうため危険です。
そうした凍結を防ぐために、冷却水の主な成分であるエチレングリコールが、凍結する温度を下げています。凍結する温度は冷却水の濃度が濃いほど低くなり、関東で使用する30%の濃度では-15℃、北海道などの寒冷地で使用する50%の濃度では-35℃となって凍結を防ぐわけです。
防錆作用
ラジエータ液が循環している通路をウォータージャケット、冷却水に圧力を加え循環させているのがウォーターポンプと言いますが、どちらも金属が多用されています。金属が多いということは、そのままだとサビが発生しやすいわけです。
最悪の場合はサビによる破損や漏れなどでウォータージャケットが詰まり、オーバーヒートを起こしてしまいます。しかし、エンジンオイルなどの油分とは完全に隔離されているため、冷却水が循環する領域の防錆は冷却水そのものが担っています。
潤滑作用
ラジエータ液は防錆作用と同じように、エンジンオイルなどに頼るらず自らの働きのみで、ウォーターポンプなどの潤滑を行っています。
消泡作用
ウォーターポンプにより圧力が加えられ、エンジン内部を循環している冷却水ですが、エンジンの振動などにより泡立ってしまうことがあります。たかが泡と思われるかもしれませんが、エンジン内のウォータージャケットやラジエータにはとても細くなっている部分があり、そこに泡が詰まってオーバーヒートを起こすことも珍しくありません。
そのため冷却水には泡の発生を抑制し、泡が発生してしまってもすぐに消えるような成分が含まれている必要があるのです。
ラジエータ液の交換時期と費用
ラジエータ液はエンジンオイルとは違い、エンジンの直接的な影響による劣化は少ないものの、やはり定期的な交換が交換が望ましいです。一般的に言われている交換サイクルは4~5年、距離にすると4~5万kmとなります。
しかし最近では輸入車メーカーや一部の国産メーカーでは、従来の冷却水よりも交換サイクルが長くなったスーパーロングライフクーラント(S-LLC)が採用され始めました。トヨタで採用しているスーパーLLCは7年16万キロ、ホンダで採用しているスーパーLLCは11年20万キロ無交換と、通常のものとは比較にならない代物になっています。
交換費用については車種や実施工場により差がありますが、だいたい数千円〜2、3万円程度と言ったところが相場です。
なぜラジエーター液の交換が必要なのか
先述した通り、冷却水はエンジンオイルと違って独立した循環サイクルのため、エンジンの燃焼による汚れなどの影響を受ける事はありません。しかし、エンジオイルとは完全に隔離されてはいるものの、大気とは多少触れ合うことになるので、僅かではありますが蒸発してしまいます。
さらに、冷却水は空気中の水蒸気を吸収してしまうため、濃度も薄くなってしまうわけです。濃度が薄まるということはオーバーヒートや凍結しやすくなるだけでなく、主成分でありアルコールの一種であるエチレングリコールや、その他の添加剤も減少してしまうため、本来の役割を果たせなくなってしまいます。だからこそ、冷却水には定期的な交換が必要になるわけです。
特に最近の自動車の冷却水は、見た目で劣化の判断ができません。従って自動車の取扱説明書に書いてある交換時期の目安も当てになりませんし、ディーラーをはじめ整備工場やガソリンスタンドでは濃度の測定が不可能ですので、定期的な交換をするしかないのです。
冷却水の濃度における勘違い
ユーザーの中には、冷却水に勘違いをしている人がいます。その勘違いというのは「冷却水の濃度が濃いほど冷却性能が高く、オーバーヒートしにくいのではないか」というものです。言わんとしていることはわかりますが、これは大きな勘違いになります。
冷却水の濃度は、濃くなれば濃くなるほど冷却性能は低下していきます。濃度を濃く保つことが求められるのは寒冷地であり、主な目的は凍結防止です。もちろん真水では何も効果が無いばかりか、エンジンにとっては悪影響になるため、最低でも20%以上の濃度は必要になります。つまり濃すぎても薄すぎても良くないので、冷却水は自分の使用環境に合わせた管理が必要です。
車検でのチェックポイント
ラジエータ液は車検において、性能の劣化具合などを理由に不合格にされることはありません。エンジンオイルと同様に漏れがあるかどうか確認され、漏れている場合には不合格となってしまいます。こうした冷却水漏れにより車検不合格となりやすいのは、以下の4箇所です。
・ウォーターポンプ
・ラジエータホース
・サーモスタッド
・ヒーターホース
こうした漏れを防ぐためには、定期的な交換をするのが一番です。ぜひ忘れずに定期交換をされることをオススメします。

エンジンの冷却方式
もともとエンジンを冷やす方法として多く用いられていた方式は「空冷式」と呼ばれ、エンジン本体から空気中に放熱することで行っていました。
ですが現在市販されている自動車において、空冷エンジンを搭載している車種は存在しません。空冷エンジンはエンジンの高出力化や、居住空間の確保のためによるエンジンルームの縮小に伴い、空気への放熱だけでは満足に温度を下げることが難しくなってきたからです。
また空冷エンジンは水冷エンジンに比べて作動音が大きくなることから、現在の自動車に使われている冷却方式は、冷却水を使った「水冷式」が主流になっています。
水冷エンジンのメリット
現在主流である水冷エンジンのメリットは、エンジンの温度管理のし易さです。基本的にはサーモスタッドと呼ばれる感熱式のバルブを使って冷却水の流量を調節したり、ラジエータに当たる空気の量などを調節することで温度管理を行ったりしています。
けれど近年の高性能エンジンにおいては感熱式のサーモスタッドではなく、電気で駆動するタイプの電気式サーモスタッドが使われ、従来に比べより綿密な温度管理が可能となりました。
そして空冷式に比べて冷却効率が高いことから、エンジンルームやエンジン本体のレイアウトに大幅な自由度があり、そこにエンジンの中に冷却水を通すための通路が設けられたことで作動音の減少が期待できるといったメリットがあります。
水冷エンジンのデメリット
一方、水冷エンジンには、空冷エンジンにはないデメリットも存在します。水冷エンジンは、エンジンオイルとは完全に隔離した環境でエンジン内部に冷却水を循環させなければならないため構造が複雑になり、部品点数が大幅に増えて重量が増加してしまいます。
そして、液体が常に一定の圧力を持って循環しているということは、エンジンオイル同様に「漏れ」が起きる起きる可能性が出てくるわけです。この冷却水の漏れという不具合は、車検において非常に多い故障事例と言えます。
まとめ

引用:https://www.aplusjapaneseautorepair.com/water-pump-repair
冷却水がエンジンのリンパ液と呼ばれる理由、わかっていただけたと思います。あなたの乗っている車の冷却水がS-LLCならしばらく問題はないかもしれませんが、LCCだった場合は走行距離や年数に応じて定期的に交換しましょう。