エンジオイルほどではないものの、ガソリンスタンドやカー用品店、または車検の際などに交換を勧められることが多い、ATフルード(オートマオイル)。実際、オススメされて交換してみたのはいいけれど、効果がよくわからないという方も少なくないのではないでしょうか?
そこで今回は、知っているようで知らないATフルードについての詳しい説明や、車検の際に気をつけるポイントについて紹介していきます。



よく聞くATフルードとは何か?
ATフルードとは
通称「オートマオイル」や「ATF」と呼ばれるもの。正式には「オートマチックトランスミッションフルード(Automatic transmission fluid)」と言い、オートマチックトランスミッション(自動変速機)に使用される、専用の作動油のことを指します。
ATフルードが果たす5つの役割
エンジンオイルには5つの大きな役割があるように、ATフルードにも作動油以外に大きな役割が5つあります。ここではATフルードが果たす5つの役割について、詳しく見ていきましょう。
1:潤滑剤としての役割
ミッションには、多くの金属部品が組みつけられています。ミッションは常に高回転・高負荷で可動しているため、その金属同士が互いに触れた状態で作動していたとすると、互いに摩擦を起こして摩耗するわけです。そうなると当然、スムーズな動作が出来ません。
ATフルードには、こうした不具合を解消させる潤滑剤としての役割が備わっているのです。目に見える効果というのは期待できないかもしれませんが、逆にいつまでも変わらぬ状態を維持できるようになるための役割をATフルードは担っています。
2:冷却剤としての役割
ミッション本体は、ミッションの作動で発生する熱や、エンジンや排気ガスなどの周囲から受ける影響により、温度が高温になることがあります。これは非常によくない事態です。ミッション本体が高温になることは、避けなければなりません。
そのために重要な役割を果すのが、ATフルードです。ATフルードは摩擦による熱を吸収し、ATフルード用のオイルクーラーへ熱を運ぶことで、ミッションを冷却する役割を担っています。また、ATフルード自体も高温になってはいけませんので、自身の冷却も行うわけです。
3:防錆剤としての役割
ミッションには多くの金属部品が使われており、変速などの作動時には摩擦熱などが発生するため、金属類は腐食しやすくなります。そのためATフルードの油分により皮膜を形成し、金属が直接空気などに触れることを防ぐことでサビから守ってくれるわけです。
4:洗浄剤としての役割
オートマミッションが変速などの作動をする際には、金属や摩擦材の削り粉が発生します。オートマミッション内は非常に精密に作られている上に油路も細いため、詰まってしまっては一大事です。
しかし、生じた削り粉はATフルードによって洗い流されます。さらに削り粉はATオイルフィルターで濾過され、マグネット付きのドレンボルトの作用によって除去を行われることにより、正常な状態が保たれるわけです。
5:作動油としての役割
ATフルードとエンジンオイルの最も大きな違いは、作動油としての役割です。ATフルードは従来のオートマミッションにおいて、自動車を前進または後退させる動力伝達と、各ギヤを切り替える変速のどちらも担っています。
そのため、ATフルードの交換を怠ってしまうと動力伝達やギヤの切り替えに支障が生じてしまいますので、忘れずに交換しなくてはならないわけです。
ATフルードの交換目安
ATフルードはエンジンオイルと同様に、定期的な交換をすることで自動車の故障を未然に防いでくれることがわかりましたが、ATフルードの交換が与える効果はそれだけではありません。しっかり定期的な交換をしておけば、経済的にもお得なのです。ここでは、そんなATフルードの交換時期の目安と、価格などを紹介します。
ATフルードの交換時期
ATフルードはエンジンオイルの爆発による汚れほどではありませんが、使用している以上は必ず汚れてしまいます。主な汚れは各部品の作動による削りカスや熱による劣化、また添加されている成分の劣化などが代表的です。もちろん走行距離や使用環境、走り方などにより汚れ方にバラつきはあります。
実際、他のATフルードの汚れと比較して、ある程度の参考にすることは可能です。けれど、各メーカーによりATフルードの色そのものに違いがありますので、単純な見た目の色では汚れているかの判断が難しいと言えます。
また、これはエンジンオイルなどにも言える事ですが、走っていないから交換の必要がないわけではありません。添加されている添加剤や、フルード(オイル)自体は空気中の酸素や水分に触れることで酸化し、劣化していくからです。そのため走っていなくとも、定期的な交換が必要と言えます。
肝心の交換時期ですが、2年2万kmが理想です。この交換時期はあくまで目安ですが、上記の役割を鑑みるに交換したほうが無難でしょう。無論すぐに壊れるわけではありませんが、ミッションの故障を未然に防ぐためにも、交換することをオススメします。
ATフルードの交換費用
一般の方が1番困惑するのが、ATフルードの交換にかかる費用ではないでしょうか? エンジンオイルは車種や大きさなどにより、比較的わかりやすい価格が表示されていることが多いように思いますが、ATフルードに至っては別です。店ごとで表示の仕方にバラつきがあり、「○リッター使用でいくら」という書き方をしている場合も少なくありません。
まずは金額の前に、必要になる量を見ていきましょう。ATフルードはエンジンオイルとは異なり、ミッション下部のドレンから全量を排出させることは構造上不可能です。そのため通常は専用の機械を使用して抜けた分と同量の新品オイルを補充し、しばらくアイドリングしたのちに再度抜き取り、補充を繰り返して交換します。
したがってATフルードは交換に「○リッター必要」なのではなく、「○リッター使用するのか?」というのが正しいです。そのため多く使用すれば綺麗にできるわけではなく、総量の半分程度の新品ATフルードの使用で十分に綺麗になります。
これはあくまで参考となりますが、実際にミッションに入っているATフルードの総量は軽自動車で7~8リッター、排気量の大きい4WD車などでは17~18リッターほどです。そうした車種の情報を参考に考えると、軽自動車で4~5リッター、大きな4WD車で8~9程度の新品フルードを使用するのが一般的となります。
そうなると必然的に金額が見えてきますね。ATフルードにも純正指定のものや、高価な物まで様々なグレードがありますが、国産車に使用されるものでATフルード1リッターあたり1,000円~2,000円程度、工賃も大体1,000円~2,000円程度のお店が多いです。軽自動車であれば5リッター使用で、5,000円~10,000円程度といったところが相場と言えます。
ただし、ATフルードを交換する際には1つ注意点があります。現在は様々な方式のミッションが存在しているため、場合によっては専用のフルードを使用しなくてはいけません。もし間違ったものを使ってしまうと即不具合が出てしまう場合がありますので、必ずお店の人に良く相談してから使用するようにしてください。
車検でのポイント
エンジンオイル同様、ATフルードが汚いからなどの理由で車検が通らなくなることはありません。車検でチェックされるポイントは、「規定量入っているか」です。エンジンオイルとは違い理論上、量が減少することはありません。よって万が一、量が少なくなってしまっている場合は、どこかで漏れている可能性が高いです。
車検では油脂類の漏れがあったら合格できませんので、漏れている場合は不良個所の修理が必要になりますので覚えておきましょう。
オートマチックトランスミッションの仕組み
オートマチックトランスミッションと一口に言っても、どんなものかよくわからない人も多いのではないでしょうか? ここでは、最もオーソドックスなオートマチックトランスミッション(以後AT)の仕組みについて説明していきます。
まずエンジンの回転は、トルクコンバーターと呼ばれる流体クラッチによって、トルク(力)が増幅された状態でAT本体に伝わります。このトルクコンバーターは、電源の入った扇風機(エンジン側)と、電源の入っていない扇風機(AT側)が向かい合っているような作りと想像してください。
この、電源の入った扇風機(エンジン側)の羽が回転し、空気(ATフルード)が電源の入っていない扇風機(AT側)の羽に当たることで、電源の入っていない扇風機(AT側)を回転させます。
つまりエンジンとATは物理的に繋がっておらず、エンジンの動力はATフルードを介してミッションに伝わることになるわけです。だからATフルードが劣化してしまうと動力伝達能力が低下し、より多くアクセルを踏むことになって燃費が悪化するのです。
次にギヤの切り替え(変速)ですが、ギヤの切り替えは車内にあるシフトレバーを操作することによって行われます。シフトレバーを操作することでAT内部のバルブを切り替え、走行中は電気式のバルブによってクラッチやブレーキバンドといった機構にかかる油圧を切り替え、と各段数に切り替えています。
万が一ATフルードが劣化していると、各バルブやクラッチ、ブレーキバンドと言った各機構の動きや圧着力が低下するため、やはり変速ショックや燃費の低下に繋がるわけです。
新しいオートマチック機構
従来のオーソドックスなタイプのATもまだまだ多くの車両で採用されていますが、近年の低燃費意識の高まりや、技術の進歩により様々な方式のATが開発され、市販されています。ここでは最近の主流となりつつある2つのオートマチック機構について、詳しく紹介していきます。
CVT(Continuously Variable Transmission)
今や国産車の多くが採用され、次世代のAT機構としてすっかり定着しているのが「CVT」、無段階変速機になります。従来型のATと同じように、トルクコンバーターを使用しているタイプが多いです。これにもATフルードと同じ役割を果す、CVTフルードが存在します。
機構の特徴として挙げられるのは、CVTフルードにはATフルードに必要ない「摩擦特性」が求められる点です。よって交換する際には、必ずCVT専用のフルードを使用しなくてはいけませんので注意しましょう。
DCT(デュアルクラッチトランスミッション)
日本ではあまり耳にしない名前ではありますが、欧州ではコンパクトカーを中心に「DCT」と呼ばれるミッションが多く採用されています。従来型のATやCVTはトルクコンバーターを使用していますが、DCTはマニュアルトランスミッションのような機械式クラッチが、文字通りダブルで装着されているわけです。
DCTの主な特徴は、従来は人がクラッチペダルを踏むことで操作していたことを車がコンピューターで判断し、油圧で2つのクラッチの操作を行っている点になります。走行中の手動による変速操作が不要なため、オートマチック車でありながら、ミッション本体の構造はマニュアルミッションとほぼ同じ作りになっています。
そのためCVT以上に厳密なオイル管理が必要となり、メーカー純正の専用フルードを使用しなくてはいけません。
まとめ
いかがでしたでしょうか? ATフルードは交換しても効果がわかりにくいものではありますが、ミッション周りにおいて非常に重要な役割を多数担っています。そのため定期的な交換をすることで故障を未然に防ぐことができる上、正常な状態を保つことができますので、理想の交換時期が来たら交換するのがオススメです。