筆者自身が現役の整備士時代、比較的多く「車検のついでに交換しようかな」と皆さんが口にしていたと感じたのは、タイヤです。
しかし、ほかの消耗品と比べると割高感があり、ガソリンスタンドなどで勧められても「次の車検で交換すれば良いかな」と思われる方も少ないと思います。
もしくは、「いざ車検の見積もりを見たら、予想していなかったタイヤ交換が必要になり、金額が上がってしまった」といったケースもありますので、よほど車に興味がある方でなければ、日常生活においてほとんど気にすることがないといった方もいらっしゃるでしょう。
しかし、車検では比較的丁寧に点検をしますし、安全な走行にはかかせない大切な部品です。
ここでは、車検でのチェックポイントや、タイヤに関する詳しい情報などをご案内していきます。

タイヤの重要性
「タイヤとはなにか」については説明は不要かと思いますので、ここでは少し踏み込んだ内容をお話ししていきます。
まずは、皆さんが思っている以上に、整備士や自動車業界の人間は、安全性と快適性にとってタイヤはかなり重要だと捉えています。
本サイト内のさまざまなページで、ブレーキがかなり重要な部品であることを説明しています。もちろんブレーキが効かなければとなることができないので、事実上走行できません。
しかし、よく考えてみると、どんなに高性能で効きの良いブレーキが装着されている自動車でも、タイヤがスリップしてしまえば止まることすらおろか、コントロールが効かなくなります。
つまりタイヤとは、自動車を安全で快適に走らせるための基本であり基礎なのです。
タイヤの構造(おさらい)
自動車に使用されるタイヤの基本構造についてのおさらいです。
現代の自動車に使用されているタイヤは、空気入りゴムタイヤです。どんなに高性能な自動車に装着されるタイヤでも、市販車であれば空気入りゴムタイヤが使われます。
そして、最近の自動車(一部トラックは除く)には、チューブレスタイヤが装着されています。
以下にタイヤの種類と違いを説明します。
種類
チューブタイヤ
ひと昔前までは、チューブタイヤが主流でした。タイヤと呼ばれる部分は外側も保護し、路面とのグリップを維持する役目、そして内部に、チューブといわれるゴム製でドーナツ型の風船上のものを入れることで、空気を保持していました。
メリット:
・交換作業が手作業(それなりの工具は必要)で行える
・製造過程において、さほど高い精度を必要としない
・悪路などで強い衝撃を受け、多少ホイールやタイヤが変形しても、チューブにエアー漏れがない限り、ある程度走行することが可能
高い空気圧にも耐えやすいため、悪路を走行することが想定されるダンプカーなどにはいまだに使用されていることも珍しくありません。
デメリット:
・異物がチューブに直接刺さった場合などは一気に空気が抜けてしまう
・重量の増加
・乗り心地の低下
チューブレスタイヤ
現在の主流となっているのが、チューブレスタイヤです。
チューブタイヤとは違い空気をためておくチューブはなく、ホイールのリムとタイヤのビート(正確にはインアーライナー)と圧着で空気を保持しています。
メリット:
・クギなどが刺さっても急激な空気漏れを起こしにくい
・タイヤ内部の空気が直接リムに触れるため放熱性に優れている
・そもそもチューブがないため部品数が減り、チューブに起因するトラブルがなくなる。
デメリット:
・ホイールとタイヤ双方に高い精度が求められ、ホイールの変形や傷などでエアー漏れを起こすことがある
構造
タイヤの構造の違いは大きく分けて2種類あり、
● バイアスタイヤ
● ラジアルタイヤ
です。
現在乗用車にはほぼラジアルタイヤが使用されています。
バイアスタイヤとラジアルタイヤの違いは、カーカスと呼ばれるタイヤの構造を形成している骨格の配置の仕方にあります。
バイアスタイヤ
バイアスタイヤは、カーカスを互い違いになるよう斜めに複数層に重ねられ、進行方向に対して斜めになっているため、斜めという意味でバイアスと呼ばれます。
メリット:
・トレッド面、サイドウォールとともにカーカスコードが斜めに配置されるため、面積当たりのコードの量も多くなり、外部の衝撃に対する強度が高い頑丈なタイヤを作ることができる
・タイヤ全体が素直に変形するため、乗り心地も良い
デメリット:
・素直に変形しやすい構造のため、高速域での変形やコーナリング時などのたわみが大きいため、転がり抵抗の増加や操縦安定性に欠ける
ラジアルタイヤ
ラジアルタイヤは、カーカスが進行方向に対して90°になるよう配置され、タイヤ中心方向から放射状になっていることからラジアルと呼ばれます。
メリット:
・90°になるよう配置されたカーカスでは強度が不足するため、トレッド面(地面との接地部)には、スチールやアラミド繊維でできたベルトを用いて補強され、そのベルトの影響で高速域での変形は少なく抑えられ、操縦性の向上と低燃費に大きく貢献
・カーカス同士の擦れ合いなどがないため発熱量が抑えられ、転がり抵抗も低減できる
デメリット:
・バイアスタイヤに比べ工程数の増加や高度な技術が必要になるため、比較的価格が高価になる
・サイドウォールに配置されたカーカスの面積が少ないため、サイドウォールの強度は弱く、縁石などにヒットすることでの損傷が起きやすい
車種や用途によっては、まだまだバイアスタイヤは使用されていますが、一般に市販されている乗用車や中型程度のトラックなどでは、総合してラジアルタイヤのメリットが大きいため、ラジアルタイヤが現在の自動車にとっては主流となっています。
交換時期と車検でのポイント
車検で検査されるポイントや、タイヤ交換のタイミングについて詳しく見ていきましょう。
スリップサイン
まず車検時に重要になるポイントは残り溝の深さです。
これは国が定める保安基準により決められており、新品のタイヤで溝の深さはおよそ8mmありますが、残り溝が1.6mmを切ると車検では不合格です。
タイヤ側面の4~9カ所に三角△マークがあり、その延長線上には、少し溝の底が盛り上がった場所があり、それがスリップサインと呼ばれ、溝の底から役1.6mmになっています。
1カ所でもスリップサインが露出し、もし路面に擦れたような跡がみられる場合は、車検に通らないばかりか、雨の日などは滑り易く非常に危険なため、早めに交換しましょう。
ちなみに、変摩耗がなく、空気圧管理をしっかり行っている場合は通常のタイヤは4~50,000km程度の使用で限界付近まで摩耗します。
スタッドレスタイヤの場合
スタッドレスタイヤでも、溝が1.6mm以上残っていれば車検を通すことは可能です。
しかしここで注意していただきたいのが、スタッドレスは溝が半分以上減ってしまうと、冬用タイヤとしては使用できません。
つまり、車検はあくまでタイヤとして見ているため、1.6mmで問題ありませんが、チェーン規制など冬用タイヤの装着が義務付けられるような状況では原則使用できません。
ひび割れ
車検で不合格になることはそんなに多くはありませんが、ひび割れ確認はしています。
ゴムでできているタイヤは、年数が経過するとゴムが硬化し、次第にタイヤの変形について行けなくなります。
すると徐々にひび割れに起こします。あまり距離を乗られない場合には、タイヤの減りは問題ないものの、ひび割れがかなり進行している状態が見受けられます。検査官(員)が見て、あまりにひどいひび割れの場合は不合格になることもあります。
ゴムが硬化しているということは、タイヤの強度が低下していることはもちろん、タイヤ本来のグリップ力も低下しているということですので、新車購入もしくは、交換してから4~5年以上経過している場合は交換の時期といえます。
損傷
縁石に衝突してり、走行中に大きな異物を勢いよく踏んでしまったりした場合、タイヤ内部の構造体(カーカスなど)が内部で切れてしまい、タイヤの一部分が以上に盛り上がることがあります。
また当然ですが、クギなどが刺さっている状態も、損傷となり車検では不合格です。
タイヤ交換費用の目安
タイヤ交換にかかる工賃については、タイヤ購入時1本当たり1,000円~4,000円程度(特殊サイズは除く)ですが、部品代については、自動車に関わる消耗品の中で最も価格の幅が広いため、なかなか案内がしづらいというのが正直なところなのですが、国産タイヤメーカーで軽自動車の場合1本5,000円~、輸入メーカーで1本2,500円~が目安です。
ネットなどで実売店舗より安く購入できる可能性はありますが、持ち込みの場合交換工賃が変わる工場がほとんどですので、工場などに問い合わせ確認しましょう。
有名な国産メーカーはどのメーカーも世界に誇れる品質ですので最も望ましいですが、近年の輸入メーカーも少しずつではありますが、品質は向上してきています。
また、各メーカーともミニバン専用や低燃費重視などさまざまな特徴のあるラインアップですので、決して安くない買い物です。
購入時にはよく工場や店舗の方と相談し、選ばれることをオススメします。